距離

ホテルを出たのは、正午前。

ほどほどに会話をしながら

吸い込まれるように駅へ向かう。



別れるのも

ひどくスムーズだった。



「バイバイ」

「おやすみなさーい」

くらいは言い合うけど、

「またね」とか「連絡するね」

なんてやり取りは特にない。


一人になった瞬間、

次の約束くらいしておけば

良かった…と思わせられた。



電車に揺られながら、

しゅんくんにお礼メールを送る。



『お疲れさま!

 楽しかったよーありがとう(>_<)

 朝まで付き合わせてごめんね笑』



その程度の内容だったはず。

家に着く頃、

しゅんくんから返信がきた。



『こちらこそありがとう

 ございました!!

 また遊んでください(*´ω`*)』



…可愛い。

なんて思ってしまったけど

これ以上の返信はやめておいた。



面倒とかうざいとか、

男にハマりやすいやつだとか

思われたくなかった。


だから、連絡は必要最低限。

あと、相手が困るような

ワガママは言わない。



恐らく昔、

一度のセックスだけで

惚れこんでしまった相手に

自分が面倒な女だと教えられ、

遠ざけられたのが原因だと思う。



そいつのおかげで、

嘘をつかれるのも嫌いになった。

自分自身も正直者でありたいと

思うようになった。


一切つくなとは言わないけど、

こちらから聞いたことくらいは

嘘をつかないでほしい。



だから、他にもセフレがいることや

恋人の存在も伝えるし、

相手にも教えてほしいと思っていた。



そんな無駄に高いプライドのおかげで、

私はしばらく

しゅんくんに連絡をしなかった。



何か用があれば

向こうから連絡がくるだろう。



その想いも特に実を結ばず、

出会ってからの2日間で

急激に縮んだ私たちの関係は、

停滞してしまう。



今ならこうやって冷静に

振り返ることができるけど、

あの頃の私は

けっこうヤキモキしていたっけ。



この空白期間が

絶望的に長く感じられ、

私の中のしゅんくんは

少しずつ薄れていくのだった。

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