対面

初対面。

と言っても難しいことはなく、

視線さえ合ってしまえば

お互いなんとなく感じるものはあった。



「ふゆこ…さん?」



そうやって声をかけられ、

私も、ああこの人だと認識し、



「しゅんくん」



と、彼の顔を見ながら、

名前を呼ぶことができた。



写メの中のしゅんくんは

金髪でやんちゃに見えたけど、

目の前にいる彼は黒髪で

落ち着いた雰囲気だった。


金髪の方が好みだなー

なんて思いもあったけど、

とりあえず、会ってみてよかった。


向こうがどう感じていたかは

知らないけど。



「どこ行きますか?」



時間は確か、

23時くらいだったと思う。



私はお酒が得意ではないし、

初対面の人と飲みにいっても…

なんて考えてしまい、




「ホテル行っちゃう?」




と、自分から誘ってしまう。



ホテルで飲めばいいしと

付け足すと、しゅんくんも

「分かりました」と頷いた。



この頃の私は、

彼氏がいないのを良いことに

何人かのセフレと

適当に遊ぶことが多かった。


なので、ホテル街に行くのも

特に抵抗はなかったし、

好きでよく使ってたホテルへも

迷うことなく歩いていけた。



途中、コンビニで

酒とつまみを調達して、

知り合って間もない彼とラブホテルへ。



缶ビールと缶チューハイで

乾杯し、テレビの音をBGMに

他愛もない話をする。



話し始めて早々に、

しゅんくんは“春”と書いて

しゅんと読むんだと教えてくれた。


そして、“冬子”と名乗った私に

運命を感じたと。

だから会ってみたくなったと笑った。



そのふにゃっとした笑顔が、

酷く可愛かった。



しかし、私の名前は

“ふゆこ”ではなく“とうこ”と読むのだ。



「ふゆこさん、色白いし

黒髪だからすごい冬子っぽい」



とか言いながら、

上機嫌でビールを飲む彼を見ていたら、

わざわざ訂正する気も起きなかった。



しゅんくんは、

居酒屋とバーで働くフリーター。

私より二つ上の23歳。



年下の私に

敬語を使う理由、とは。



私の見た目が老けていて

年上に見られたのかもしれない。



けど、

それだけが理由じゃないことは、

私自身も分かっていた。



それは、

これから行われる行為を

暗に意味していたのだ。

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