春夏秋冬

en.

曖昧

正直、私も彼も

いつ出会ったかという記憶は

非常に曖昧だ。


お互い、それくらい

どうでも良い出会いだったのだ。



当時、私はブラック企業で

土日も関係なく毎日働いていた。

もちろん安月給。


そんな折、

少し遅いシルバーウィークが

とれることになり、

11月頭に長めの連休をもらった。



しかし、いざ仕事がなくなると

手持ち無沙汰で

何もやることがない。


彼氏も居らず、

気軽に遊べる友だちも居らず、

実家への帰省も考えたけれど

それも面倒で…。



そんなとき、

10代の頃にハマっていた

とある出会い系サイトを

思い出してしまった。



掲示板形式のそのサイトに



“今日遊べる人”



という書き込みと

メールアドレスを残した。



メールは何通もきたけど、

会ってみたいと思ったのは

3人くらいだった。



その中の一人に、彼がいた。



私は地味な上に細身でもないし

美人にも可愛いにも

属さないタイプなので、

自分の容姿には全く自信がない。



なので、見た目にこだわる人は

好きじゃないし会いたくない。

それでも相手の特徴は、

気になってしまうのだけど。



あの時は、誰でもいいから

会って気が合って、

あわよくばセックスできたらいい。

そんなことだけを考えていた。



だからお互い、どんな見た目か

ぜんぜん分からないまま会うことにした。

待ち合わせ場所は、新宿東口だった。



イケメンが来るかも!



みたいな期待は

微塵もなかったから、

服装も化粧もほどほどにした。

むしろ、おざなりだったと思う。



だって、メールをてしたその日に

イケメンに会える可能性って…

考えなくても、皆無に等しいことはわかる。



しかし、新宿駅に着いたところで

少しだけ不安が芽生えた。



もしもとんでもない人が来たら

どうしよう…。



東口まで来ておきながら、

私は恐る恐る

「写メが見たい」

とメールしてみた。



ここで断られたり

物凄いのが送られてきたらそれまでだ。

そう思いながら。



しかし相手からは、

予想外にするりと写メが届き、

予想外に…かっこよかった。



しかも彼は、

私には写メを送れなどとは言わず

私の見た目を気にするそぶりもなかったので、

それに少し安心もした。



何気ない暇潰しのつもりが、私は少しだけ

彼――"しゅん”と会うことが

楽しみになってしまっていた。

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