第5話 石か? 玉か?
「助かったのじゃ、礼をいうぞ」
「まさか塀を乗り越えようとなされてる姫がいようとは…驚きました」
背丈は
「
おぶった時に背中に感じた感触は相当のものだった。
こうして対面して見ても幼い風貌に見合わぬ豊満さ、なるほど壁のぼりも容易でないだろうと思わせる大きさだ。
「ん、何がじゃ? それよりもぬし、父上の家臣なのであろう? ならばわらわの供をせい」
「供…でございますか。一体どちらに行かれようというのです?」
「決まっておる、町じゃ!」
「おぉ、山原様」
「山原様ーっ、ご出世おめでとうございやす!」
町といってもどこに連れて行くべきか迷ったが、自分の所領であるここが無難だろう。万が一の事もないだろうし城からも近い。
何より町割りを把握している分、案内を求められても問題なく応える事ができる。
「すごいのぉ、ぬし。民草がみな慕っておるではないか」
「いえ、それほどの事でも…。私めの所領はこの町一つですゆえ、町人との距離が近くなりやすくもありますれば」
「………むー」
何か不満げだ。気に障るような事をした覚えはないのだが。
この小さな姫は、仮にも仕える殿の愛娘。侍大将の山原としては上司も当然の存在だ、無礼は許されない。
「ぬし。本当はそのように面倒な性格ではなかろう? わらわの前ではかしこまらずともよいぞ」
「!?」
なん…だと?―――― 一瞬全身が凍りついたような寒気に覆われた。出会ってよりわずか
「(いや……、さすがにそこまで見抜かれてはいないだろう。だが、侮れぬものだな、警戒すべきか)」
「……ぬし、ぬしっ! わらわを放って置いて何を呆けておる。ぬしの名を聞いておるのじゃからこたえぬか」
「ああ、これは失礼を。
「むー……まぁよい。山原信正じゃな? しかと覚えておくぞっ」
間違いない、勘付いている。見抜いているわけではなく、山原という武士の下に何かが隠されていると、彼女は確実に勘付いている。
「(あの人の好さそうな殿様からは想像もつかないな。いや、
不意に裾を引かれ、姫の方を見る。
「のう、ノブよ。あの娘こちらを見ておるがぬしの知り合いか?」
指し示す方向に視線を向けると、いつかの町娘が驚いたような表情でこちらを伺っていた。
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