第6話 戦いの連鎖



「おお、参ったかノブ。ささ、碁で勝負じゃ勝負! 此度こそは負けぬぞー」

 あれから10日。


 毎日のように姫に呼び出されては遊び相手を務めるのが、山原の日課となっていた。

 殿も愛娘が楽しそうにしているのを見て、自分に姫の相手をよろしく頼むとつい昨日、正式に申し付けてきたほどだ。



「(ふー、また面倒な事になってしまったな)」

 碁盤から顔を上げて室内を伺う。

 そう広くない6畳間には姫の付き人である女中2人と姫、そして自分の4人が居る。

 姫は楽しげに碁盤とにらめっこをしているが、女中二人はあまり面白くなさそうな顔でこちらを伺っていた。


「(当然だな。女中達は家臣それぞれの手先だ。山原のような成り上がり者が姫の側をうろつくのを良しとはしないだろう)」

 先日の出かけ先の町でも誤解を解くのに苦心した―――横から町人が、姫の事を山原の嫁かなどと茶々を入れてきたせいで。

 あの町娘が勘違いしただけでなく、姫も悪ノリしたせいでちょっとした騒ぎになりかけた事を思い返す。


「(女が絡む話がこうも面倒だとはな)」

 幸い、町の件は殿や他の家臣の耳には届いてはいないようだが、噂好きの女中達がその辺の事を知ったならまた面倒な事になりかねない。

 山原の気はずっしりと重かった。






「よーお、山原じゃないか? 今日も姫様のご機嫌取りか?」

「これは醐内ごだい様。そう意地の悪い事をおっしゃらないでくだされ。これも役目なれば」


「そちも大変よな。まぁ出世すればするほど責任重き役をなさねばならぬは当然。努々ゆめゆめ油断されるなよ?」

「ありがとうございます。醐内様」

 同じ家臣である彼は、決して山原に友好的というわけではない。もとより武家の出の彼は、むしろ自分を下に見てる派だ。


 だからこそのである。


「(武士の派閥というのも大変だな。姫に覚えのいい山原じぶんを否定するか肯定するかで、排除する側か味方に引き入れようとする側かわかるというわけだ)」

 醐内は暗に排除派がいると教えてくれたのだ。つまり彼自身は山原を味方に引き入れようという側。


 城内にて渦巻く静かな戦い。こちらも気が抜けない話だと彼はため息をつく。


「(……姫を利用する、か。を明確にするには丁度良いやもしれん)」

 もっとも、何もせずとも彼女のあの様子では今後も自分を贔屓にするだろう。自分と姫の距離が近い事を苦々しく思う同僚家臣、それがこの城内における自分の敵だ。


「来る時に備え、厄介な輩は今のうちに目を付けておかねばな」






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