第3話 天道の下で



「山原さま。皆、準備できました」

 雑兵の代表が報告にくる。兵士の数は20余りしかいない。今、山原はこの小隊を指揮する立場にあった。


「うむ。此度の戦、規模は小さい。しばらくは睨み合いになるであろう。油断せず待機していよ」

「はっ!」

 味方の総兵力は200ほどで、構成は雑兵による小隊が8つほど。彼の隊もその内の一つだ。


「(小競り合いか。任には直接関係のない事だが、致し方あるまい)」

 敵の一団も約2里8kmほど先の小高い丘に陣取っているのが見える。なんてことのない野戦だが、互いに殺傷能力ある獲物をもっている以上は死の危険が付きまとう。

 彼にとっては、ここで死ぬのはなんとしても避けなければならなかった。






「全軍、突撃ぃ!!」

 総大将の掛け声と共に、敵味方が陣取っていた丘をかけおり、ただっぴろい野原にてぶつかりあう。

 声だけは威勢がよいが、総大将の隊は丘の上から一歩も動かなかった。


「なーにが全軍だよ。くっそ、てめぇも命かけやがれっての」

 兵の一人が愚痴をこぼすと、周囲の同僚たちもウンウンと頷く。

 雑兵はその全てが徴兵された民衆だ。訓練された精兵とは違い、命を賭ければ高い確率で死に至る。

 この戦は幸い、敵側も同じく雑兵ばかり…しかし決定的に違うものがある。敵側は総大将の隊も戦線に出てきている。士気と勢いの差は歴然だった。


「(まずいな、このままではこちらの負けは必至……しかし我にとっては好機!)」

 武士・山原の計画ではこの先、ある程度の出世が必要であった。武士の出世は戦場で手柄をあげることが最良の手段である。

 だが、こんな少数同士の小競り合いでは大将首を上げるために別行動を取る事は難しい。しかし敵のほうから近づいてきたのは幸いだった。



「皆、我に続け!」

 自分の隊を引きつれ、山原は敵の一角に食い込む。双方の兵数が少ないからこそ、手薄な箇所も兵の隙間も見えやすい。

 武士の鎧は動きにくいが、培った体術で巧みに敵兵を斬り捨ててゆく。


「おお、や、山原さますげぇ…」

「いける!? やれるぞ俺たちっ!!」

 隊長たる武将の活躍は、兵士に自信と勢いを与える。山原の隊は一気に敵大将に迫り―――


御首みしるし頂戴っ!!」

「なっ!?」


 ドシッゥ!!


「敵大将が首、この山原が討ち取った!!」

 いかに少ない戦力といえど、簡単に大将に迫らせるほど守りの布陣は甘くない。

 だが山原から見れば、決して崩せないものではなかった。仮に自分の隊が全滅しようとも、彼には敵大将を討ち取れるという確固たる自信があった。



 何より驚いていたのは味方側の総大将だ。適当な小競り合いで終わるはずの小さな合戦が、開戦より1刻もかからぬうちに自軍の勝利で幕を閉じたのだから。





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