第2話 読まれない苦痛

 二月二十九日午前十一時すぎ、カクヨムはスタートした。

 徹夜して最後の小説を仕上げたおいらは眠りもせずにその時を迎えた。しかし、世界は反転などしなかった。マイページから小説管理に名称が変わったページを眺めていても何も変わらない。トップページに行くと、ピックアップされた小説が紹介されている。もちろんおいらの小説じゃない。また小説管理のページに戻る。何も変化はない。

「読まれないんだあ」

 おいらはがっくりした。徹夜までして書いたのに。全く報われない。


 その時、おいらは勘違いしていたんだ。PVを見るには、アクセス数と書かれた部分をクリックしなければいけなかったんだ。おいらはそのことに気がつかなくて、丸二日間、

「誰も訪問者はいない。現実はこんなものか」

とがっくりしていた。


 三日目である。今日も今日とて小説管理のページを見ていたら、間違えてアクセス数のところをクリックしてしまった。すると、PV数が現れた。

「ああ、見られてるんだ。でも第一話と最終話だけ……」

 おいらはWeb小説の洗礼を受けてしまった。Web小説は紙の小説のように、初めから終わりまで熟読されるのではなく、第一話を見て、面白ければ次を読むし、つまらなければ最終話に飛んで結論を見るか。読むのをやめてしまうのだ。さらに、おいらの小説は一エピソードが一万字を超えていたんだが、それでは読者が疲れてしまう。だいたい千文字から三千文字くらいが疲れさせない文字数、つまり、飽きさせない分量なのだ。

 そんなことは後から気づいたり、知ったことだ。


 そんなわけで、おいらの小説は読まれない。一日に何度もアクセス数をクリックするが、変化はない。

 おいらは他の作者の小説を読んで勉強しようと思った。ところが読めない。自分の小説は読めるのに、他人の小説はちっとも読めないのだ。別に、読もうとした小説が駄作だったわけではない。ランキング上位の作品ばかりだ。でも読めない。紙の本、縦書きの小説に慣れたおいらにはパソコンの光彩、横書き、文章の洪水に慣れることができなくて、どうしても読むことができないのだ。これはのちの話になるが創作論・評論のジャンルだと不思議なことに読めるんだ。たぶん、おいらの脳が「学術書は横書き、小説は縦書き」と記憶しているからだろうと思う。それが本当にあっているかどうかはわからないけれど。


 そういうわけで、これまでに蓄えた知識を使って新しい小説を書こうと思い立った。そんな時、『角川春樹小説賞』に送っていた『平帆太郎伝』の落選が決まった。この小説の一章は三千文字くらいだ。これはいいと思って、コピー&ペーストして投稿した。

 それと同じ時期に突然脳裏を『ゆうもあ先生』という言葉が駆け抜けた。内容、プロットは作らないでいきなり第一話を書きあげた。だいたい三千文字くらいだ。ちょうどいい。早速アップした。


 すると『平帆太郎伝』は★は得られなかったがPVは稼いだ。最初から最後まで読まれての結果である。クライマックスに問題があったのであろうと諦めた。後日談になってしまうがPVはなぜか未だに伸び続けている。530を超えた。まあ、人気作品に比べたら屁でもないが、不思議な話ではある。


『ゆうもあ先生』は案外好評な出だしでレビューももらい★が11ついた。しかしPVは執筆時点で319である。『平帆太郎伝』にかなわない。本当に不思議だ。


 カクヨムをしだして、紙の本を読むことがほとんどなくなった。おいらには積ん読の本が山ほどあるんだ。しかし、どうしてもカクヨムの方を見てしまう。そしてアクセス数を見て一喜一憂してしまう。カクヨムには麻薬とかギャンブルの要素が入っているのではないかと思ってしまう。


 

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