第6話 姉崎マホ子の憂鬱

姉崎マホ子はイライラしていた。二限終わりの休み時間、マホ子は自分の席でひたすら貧乏ゆすりを繰り返していた。「またマホちゃんがイライラしている」、それを見かねた幼馴染の田村睦美は、マホ子の席に近づいて話し掛ける。


「どうしたのマホちゃん? すごいステップ踏んで」

「ああ、睦美…」

「凄いね、マタドールに飛び掛かる前の牛みたいになってる」


右足をタンタンと床に叩き付けるマホ子のイライラは止みそうにない。


「ねえ、聞いて睦美」


やれやれ。この幼馴染のグチを聞くのは私の役目だからな、と睦美は思う。

「どうしたの? マホちゃん」


「私ね、スナイパーになりたいの」


「は?」

「『は?』じゃないの。私はスナイパーになりたいの」

「いや、突然……、え?」

「ああ、ごめん。正確に言うと、暗殺者になりたいの」


睦美は早退する、この幼馴染と絶縁する、とりあえず我慢して話を聞く、という三つの選択肢を考えた後、とりあえず三番目を選んだ。


「何で、急に…。昨日マホちゃん言ってたじゃない。『私の夢は、オリンピックの腐敗を止める事』って」

「それはもう手遅れよ」

「じゃあ、どうして」


どうせこの幼馴染の事だから、単純に映画か何か見て影響されたんだろうな、と睦美は思う。


「実は映画に影響されたの」

「そのままかよ!」


睦美が出した大声に、隣にいたやすみん(安田皆実)がビクっと体を動かす。


「どうしたのいきなり大声出して」

「うん、ごめん。ちょっと痰が絡んだじゃって…」

「そう…、あのさ、『レオン』って映画あるじゃない。アレを見て格好良いなと思ったのね」

「へえ、そうなんだ」

「私もああいう職業に就きたい!と強く思ったのね」


強く思ったんだ…。睦美は呆れ果てる。そもそも暗殺者を職業と呼ぶかどうかも疑問だが、そんな事をマホ子に言ってもムダだろう。


「もう暗殺道具も買っているの」


マホ子が教室後方に指を向けると、中型犬くらいのサイズのボーガンが、無造作に置かれていた。


「でけーよ! 全然隠れてねー! もはや暗殺でも何でもねーよ!」


睦美の大声で、隣の席のスギジュン(杉田順吾)が肩を震わせる。


「どうしたの。また大声出して」

「ごめん、ちょっとね」

「今日の睦美、絶対変よ。熱でもあるんじゃないの?」

「大丈夫、微熱だから」


                         つづく

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