第385話合宿当日

 合宿当日。朝からいい天気だった。

朝早く学校前からバスに乗り、合宿所であるセミナーハウスへと向かった。

これは遠足ではなく部活の合宿である。これから四日間は練習漬けの毎日である。でもなぜか浮かれた気分でもある。人生で初めての部活での合宿。実は楽しみである。実は浮かれまくっている。


 セミナーハウスに着くと、何故か本館正面玄関の前に吹奏楽部員がずらっと立っていた。


「なんでここに奴らがいる?……まだ県大会が終わったばかりやろう? 関西大会はどないなっとんや?」

とバスを降りたばかりの器楽部員のいぶかしげな表情よそに

「それでは器楽部の楽器の搬入を手伝いましょう!」

と谷端先生が号令をかけた。


 どやどやと僕らの乗って来たバスのすぐ後に到着したトラックに吹奏楽部員が向かった。そして当たり前のように楽器を搬出する手伝いを始めた。流石、何度もコンクールで経験を積んでいるのか手慣れたように楽器を下ろしていた。


「なんでお前らがここにおるんや?  わざわざ搬入の手伝いをしに来たんか? 暇なん?」

と僕はちょうど目の前にいた部長の宮田栄に聞いた。


「失礼な奴ちゃな。暇ちゃうわ。その話は後で先生が説明するわ。それよりも先に楽器を運ぶで」

と栄にはぐらかされてしまった。

『どっちにしろ後で説明はあるだろうから』と自分に言い聞かせながら、僕は釈然としないまま楽器を手にした。


 その後器楽部・吹奏楽部の両部員全員が講堂に集合させられた。


「関西大会はどうすんのや? まさか搬入の手伝いだけに来たわけやないやろう?」

と器楽部員はまだ理解できないという表情でいた。


「はい! 吹奏楽部の皆さん搬入のお手伝いありがとうございました。おかげで午前中ですべて終わりました」

と美奈子ちゃんは明るい声で吹奏楽部の部員たちに頭を下げた。


 そして僕たち器楽部員たちに向かうと

「今回の合宿に吹奏楽部も参加することになりました」

と言い放った。


 器楽部員たちは一斉に

「え~!?」

と声を上げた。

ここに吹奏楽部員が居る理由は分かったが、器楽部員の頭の上にはまだ『クエッションマーク』が点滅していた。


「え~、今回、吹奏楽部は器楽部の有志の応援もあって、関西大会に駒を進めることができました。そこで急遽関西大会までに合宿をすることになったのですが、ちょうど器楽部がここで合宿をすることになっていたので相乗りさせていただくことになりました」

と今度は谷端先生が器楽部に向かって説明を始めた。


「お盆前に急遽決まった事なので合宿場所を探すのも困難が予想されていたのですが、幸いにも器楽部がここで合宿する事が決まっていて、まだ施設に余裕があったので吹奏楽部との合同合宿という事になりました。もちろんみなと神戸交響楽団の皆さんにも快く了解してもらい、どちらの部も指導してもらえることになりました」

と美奈子ちゃんが説明を補足した。


 渡りに船とはこの事を言うのだろう。

僕は拓哉と哲也に

「お前ら知っとった?」

と確認した。


すると拓哉が

「器楽部の何人かが吹部の応援に行くのもあって『部全体で吹部を応援する』て言うのは聞いとったけど、合宿まで一緒にやるっていうのは俺も初めて聞いたわ。なあ哲也」

と最後は哲也に同意を求めるように話を振った。


「うん。俺もそれは知っとったけど、合宿の件は知らなんだ」

と拓哉と共にパートリーダー会に出ている哲也も驚いていた。


 その後みなと神戸交響楽団の楽団員と初顔合わせがあった。

勿論ダニーもそこにいた。


 器楽部と吹奏楽部の各パートの指導担当者が紹介され、練習場所の割り振りとスケジュールの発表が済むと、そのまま昼食の時間となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る