第358話小百合からの相談
僕はその様子を眺めていたが、小百合が近寄ってきて
「ちょっとご相談したいんですが良いですか?」
と声を掛けてきた。
こちらからどうやって小百合に探りを入れようかと考えていたところだったので、内心猛烈にほっとしていた。
しかしそんな素振りは微塵も見せずに
「ええけど、どうしたん?」
僕はさわやかな笑顔で応えた。
「あの、プルトの事なんですが……」
と小百合は真剣な顔をして話し出した。
僕のさわやかな笑顔は全くこの場にそぐわないものになった。行き場を失って虚しさが増したような気がした。
――意識し過ぎだ――
「プルト? ああ、セカンドのプルトの事?」
取り繕うように僕も真顔になって聞き返した。これはこれでやっぱり空回りしたような気がする。
「はい、そうです。今のままの席順で良いのか動かした方が良いのか迷っています」
と小百合は僕の勝手な空回りなんか気にもかけずに答えた。
「ゴホン……で、誰を動かすつもりなん?」
僕は軽く咳払いしてから聞き直した。
「誰を……というか、あの三人をどこに置けばいいのか悩んでいます」
「なるほどねぇ……あの三人ねえ……今はどうなってんの?」
予想通り小百合の悩みの根源はあの『マリアさんトリオ』だった。
「瑞穂さんが先生と決めた席順で座ってます」
そういって小百合は僕にプルト表を広げて見せてくれた。
現在のセカンドの状況はこうだった。
1プルトが東雲小百合・水岩恵子。二年生の中では一番レベルが高い二人。
2プルトが高木徹・金子颯太の経験一年のコンビ。
3プルトが秋本奏・船越亜紀。同じく経験一年のコンビ。ここまでが二年生。
4プルトが秋島かがり・杉山奈緒のマリアトリオの一人と未経験のコンビ。
5プルトが横尾正・尾坂慶の未経験一年生コンビ。
6プルトが鈴原悠一・中務優宏マリアトリオの二人。
十二人のセカンドのメンバーが、ただ単に年功序列みたいな席順で座っていた。
「こうやって見てみると本当にセカンドのメンバー多いよな」
と瑞穂と冴子と編成を決めていた時感じた不安を言葉にした。
「そうなんです。てっきりあの三人はファーストへ行くものだと思っていました」
と小百合も意外そうな表情を浮かべて言った。
――そういう小百合も自分がセカンドにコンバートされるとは考えてもいなかっただろう?――
と思ったが口には出さなかった。
「俺もあの三人の事はそう思ったけど、まず最初はセカンドからって事らしいわ」
と昨年のセカンドは七人しかいなかった事も思い出しながら言った。
そもそもこの状況は分かった上で冴子と瑞穂が決めたことだから、その説明は小百合も受けているはずだ。
「そうなんですよね」
と小百合は頷いた。
それもあってか小百合はセカンドの人数が多い事に関しては理解しているようだった。
「それで……プルト替えの事は誰かに相談したの?」
僕は話題をプルトの件に戻した。
「はい。美奈子先生に相談しました」
と小百合は短く答えた。
「美和子ちゃんはなんて言うとったん?」
「それが『あなたがパートリーダーなんやから取り合えず自分で考えてみて』って言われました」
と少し落胆したように小百合は答えた。
「ほほぉ。美奈子ちゃん結構突き放すねえ……」
一応は先生にも投げかけたようだったが、美和子ちゃんはいつものように放任主義を貫いていた。
そういうところは意味不明にぶれない先生であるが、せめて『部長に確認してみて』ぐらいは言って欲しかった。
もっとも頭から『余計なことは考えなくて言われた通りやれ』等と言わないのも美和子ちゃんらしいと思っていた。
「ですよねぇ……」
と小百合は諦めたように首を振った。
「まぁ、このままでも問題はないと思うんやけどなぁ」
と僕はその編成表を見ながら答えた。
年功序列みたいなとは思ったが、これはこれで有りだとも思った。
新人とは言え例の三人はそれなりの経験者であり技量もある。彼らが後ろのプルトで支えるというのは十分あり得ると思う。
「で、小百合はどうしたいん?」
と僕は聞いた。
顧問がそういった以上、僕が言える事はそれほどない。
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