第135話 意外な二人


 期末試験が終わって最初の部活の日、新入部員も含めて全員が揃った。

結局、新しいメンバーは十名ほど増えた。弦楽器というのが珍しがられてこの時期にもかかわらず入部した生徒が多かったのだが、それだけではなく経験者も多かった。

先の二人を含めてヴァイオリンが三名、チェロが一名、コントラバスが一名の経験者が入部した。

その五名以外は全くの素人だったが内二名はピアノ経験者だった。案外、弦楽器をやっていた学生が多いのは驚いた。



「結構、経験者っておったなぁ」

 放課後の練習が始まる前に千龍さんが何故か呆れたように石橋さんに言った。予想を超える結果に驚きを通り越して呆れてしまったという事なんだろうか? 黒板の前に三年生が三人並んで他の部員の練習風景を唖然と眺めているように僕には見えた。


 立ち上げたころの六人と比べると、倍以上増えた部員はそれなりに存在感がある。先輩三人も感慨深げに僕たちを見回していた。


 二年生と一年生は楽器を携えてパートごとに集まっていた。

ヴァイオリンは瑞穂と忍と琴葉とそして一年生で経験者の東雲小百合(しののめさゆり)を中心に集まっていた。


「ホンマやなぁ……普通科の高校やのに、経験者がこんなにおるとはな」

石橋さんも感慨深げに頷いた。


「それにしてもこんな中途半端な時期に、よく来てくれたと思うわ。全員に感謝しないとね」

彩音さんが明るい声で千龍さんに言った。


 千龍さんはそれを聞いて何度か軽く頷くと、

「ではみんな、一度手を止めて」

と部員全員に向かって声を掛けた。そして軽く息を吸い込んでから


「今からパートごとのメンバーを発表します」

と言って手に持ったレジュメに視線を落とした。軽く内容を確認するように目を通すと、顔を上げて部長らしくはっきりとした声で話しだした。


「まず最初に断っておくわ。ヴァイオリンは第一と第二に分けているんやけど、あまり意味はないから気にせんといてくれ。基本的には未経験者向けのパート練習をしてもらうためのものやと考えてもらいたい。他のチェロもコンバスも一緒。ヴィオラは途中でヴァイオリンと入れ替えがあるかもしれんけど、取りあえず希望通りに振り分けた。コンバスとピアノ以外のパートは新人さんがいるので経験者はちゃんと教えてあげるように」


「はい」

 全員の返事がなんだか部活らしくて新鮮で心地よかった。僕は一人ピアノの前に座って周りの様子を見ていた。


「では発表します。第一ヴァイオリン。小此木彩音、結城瑞穂、東雲小百合、金子颯太。第二ヴァイオリン、清水琴葉、高木徹、水岩恵子。ヴィオラ僕と井田忍……」

 メンバー表に目を落としながらよどみなく千龍さんの発表は続く。

部員は神妙な顔つきで黙って聞いていた。

「で、最後ピアノは藤崎亮平、上田宏美、鈴原冴子」


「え?」

 僕は驚いた。そして教室を見回すと瑞穂と琴葉や忍の陰に二人は隠れるように座っていた。僕と目が合うと冴子と宏美が嬉しそうに手を振っていた。僕はいつも入り口が見えづらいピアノの椅子が指定席の様になっていたので、この二人が音楽室に入って来た事に気が付かなかった。


 それにしてもなんでこの二人がここにいるんだ? 確かに彼女たちは僕と一緒の教室でピアノを習っていたが……宏美か……僕が器楽部に入部した事は宏美には言っていた。それで冴子と一緒に来たのか……それとも瑞穂が呼んだのか?


「最後のピアノの三人やけど、上田と鈴原の二人は今でもピアノ教室とヴァイオリン教室に通っているので、ヴァイオリンも兼務で入ってもらうつもり」

千龍さんがそう言うと音楽室に軽く感嘆の声が上がった。


「え? まだヴァイオリン教室行ってたん?」

僕は意外だった。

「そうよ。辞める理由ないもん。ね、宏美」

と冴子は宏美に同意を求めた。


「うん。亮ちゃんは中二で辞めたけど」

そういうと二人は顔を見合わせて笑った。


 僕は中二でヴァイオリン教室をやめてピアノ一本に絞り込んでいた。それ以来ほとんどこの三人の中でヴァイオリン教室の話題が出ることはなく、僕も忘れていた。なので彼女たちが続けていた事は何の不思議な事でもなかったのだが、何故か『まだ続けていたのか?』と意外性を感じてしまった。


「なんだ? 藤崎、お前もヴァイオリン弾けるんか?」

千龍さんが僕よりも更に意外そうな顔で僕を見た。

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