女嫌いの男

 (面白くない。)僕はそう思った。

 特に何かをしていたわけでも、変わったことをしていたわけでもない、僕の人生はまさに皆がいうハッピーな人生とは到底言えないものだろうと思う。とはいえそこには僕の生き方があり、そういう人生を歩もうと高校時代に決めたのだから何も言えない。だがしかし、


「面白くない」

「ああそうだ、おもしろくない。なんであいつらは大学の構内でイチャイチャしているんだ!!」


乳繰り合ってるんじゃねぇである。たしかに僕自身過去の苦い経験もあり、女性に対しては一線を必ずひくようにしている。だからといって女体の神秘に興味がないわけではないのだ。豊満なそのお胸に飛び込みたいと思ったこともあればむちっとしたニーハイからこぼれおちるお肉をつまみたい衝動にも駆られる。


「どうして俺たちは男四人でトランプなんてしてるんだぁ??」

「いみわからねえよなぁ!?」


お決まりである。僕たち大学1年のころからずっと一緒にいる4人はどいつもこいつも冴えないメガネのオタクの集まりで、会話が煽り煽られ振り振られの連続といっても過言ではないほどなのだが、必ずその中には自虐の[彼女がいない]ネタが入ってくる。そんな日常が僕の大学生活のある種楽しみであり同時に悲しみでもあった。


「おい、手とまってるぞ」

「あぁ、わりぃ。今いくつだっけ?」

「4だ、早く出せよ」

「りょ、はい4」

「「「ダウト」」」

「そりゃねえだろ!!?」


よそ見をする奴が悪い、と言いながらニヤニヤしてカードをめくる悪友、クロ。

要は今は順番的には3が正しくて、それなのに4をバカ正直に4といって場に出した僕はもちろんこの机の上にたまったカードの山をすべてダウトの盟約通りに得ることになった、というわけだ。あぁそうであった、こいつら相手には絶対によそ見をしてはいけない。


「…覚えてろよ、僕の手元にはほぼすべてのカードが存在するんだぞ」

「なんでもいいがダウトいうのであれば早くその山みたいなカードを整理しないと言えないんじゃないのか?」

「え、ちょっとまてよ、まだ整理してないのに進めるのは…」

「はい4」

「おっけ5」

「ほい6」

「まてぇぇええええい!!」


僕の渾身のちょっと待ってくださいという意味も込められた怒号が飛ぶ。大学生とは、かくもこズルいものなのかと思いつつもこういう時間は僕にとっては非常に楽しい時間でもあったのだ。

 そんな大学生活を送っていた僕だが、その中の悪友2であるシンの手引というかその影響というかで始めたSNSにはかなりのはまり様であった。


「だまされたなう」

「ふぁぼっとく」


そんな会話が日常で行われるのはその時代では大学生特有のものだったように思う。

このシンという男はなかなか曲者で、こと人を煽るという作業に関しては右に出るものはいなかった。高校時代まで人に煽られる、人を煽るという作業をまともにしてこなかったいわゆる協調性の塊のような僕にとってこいつの存在はかなり異質だったのだが、嫌というわけでは無かった。そいつに誘われてはじめたのがSNSであった。


「今日夜コラボしね?」

「お前カード枠じゃねえか、俺と何コラボするんだよ」

「今日お前の家に行ってカリー・ド・パスタを作る」

「何そのありそうでなさそうなジャンル()」


面白そう面白そうと、周りも乗るが残念ながら他の2人はバイトということで今日の枠は僕とシンのみのコラボ枠となった。

適当に枠の告知と内容をほのめかす。


「拡散おkー」

「おk−」


まるでネット上にいるかのような発言ややりとりだ。


「ほいじゃ4時くらいにお前んち行くわ。そっから買い出し行こうぜ」

「りょ、準備しとくわ」


そう言って講義終了後のトランプ大会は幕をおろし、僕たちは各々帰路についた。


(あ、部屋掃除しないとな…)


そう思っていた僕のスマートフォンに通知が届く。SNSの返事が帰ってきたライトの色だ。徐ろにSNSのページを開き、誰が来たのかなとワクワクしながら見る。これもSNSのちょっとした楽しみであると思っているのは僕だけだろうか。


「お、ぴっぴじゃん、見に来てくれるんかな」


最近生放送枠で仲良くさせてもらっている女性生放送主さんから拡散された通知だった。あの頃の僕から、女性と特に何もなく(とはいっても面と向かってはやはり厳しいが)会話ができるようになってきたのは僕の心が癒えてきたからなのか、それとも僕が忘れてきているからなのかはわからない。だが少なくとも、平然を装い対応することに関して言えば特に苦とするところでは無かった。


「拡散サンクスっと…」


軽くお礼の返事を返しておき、スマートフォンをしまう。車のエンジンを掛けるためにキーを回し、シートベルトを締める一連の作業を車が優しくそのエンジン音で誘ってくれる。

 さあ帰ろう。カレーの準備と部屋の掃除が今日の僕のミッションだ。

そんな下らない適当な感情を持ったまま僕はアクセルを踏み込んだ。



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エンキョリ @noanoa_zum

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