第58話 潜入調査へ
「一番良いのは、グレイクのおっちゃんに通行手形をもらうことなんだけどな」
「ウチは納得できへん。グレイクはホンマに国を変えようっちゅうええ奴や。このまま放置はできん」
「ふむ。確かに義を見て何もせずにいるというのは、私のポリシーにも反する」
ビーとヴェッカはグレイクの無実を掴もうとしているようだが……。
「でもまだ本当にグレイクのおっちゃんが無実だっていう証拠もないだろ?」
「っ!? ボーやん、せやったらグレイクは謀反なんて起こすバカやっていうんか!」
「うぐっ、い、痛い痛い……っ」
「もう、ボータに酷いことしないでよビー!」
「お前は黙っとれポチィ! 答えぇ、ボーやん! アイツが国を裏切るようなことすると思うとんのか!」
またも胸倉を掴まれながらも、俺は真剣な眼差しで口を開く。
「俺はあくまでも可能性の話をしてるだけだ。ビーはグレイクのおっちゃんと親しい間柄だから真っ先に信用できるかもしれねぇけど、俺はまだ会ったばかりだ。確かに好印象だったけど、それだけで手放しに信用することなんてできんぞ」
「……っ、ほなら……グレイクを助けるつもりはあらへんってことか?」
「少なくとも考えなしに動くのは危険だって言ってるだけだ」
「そないなことしてる間にグレイクが無実の罪で処刑でもされたらどないするんやっ!」
彼女にとってグレイクは本当に信頼に値する人物なのだろう。だからこそ、現況に納得ができないのだ。その気持ちは分からないでもない。
しかし現状の情報だけで城に乗り込んでグレイクを無理矢理救出しても、さらにグレイクの立場を悪化させるだけだと思う。本当に無実ならなおさら。
「ちょ、ちょっとビーちゃん! 喧嘩はダメですよぉ!」
おろおろしながらカヤちゃんが止めようとするが、ビーの気迫に対し「あぅ~」と頼りない声を漏らしている。
俺は胸倉を掴まれている手に、自分の手でそっと触れた。
「いいかビー、俺だって何もしねぇなんて言ってねぇ」
「え?」
「あのおっちゃんが無事なら、問題なく関所を通過できるんだし、俺だって助けられるなら助けたい」
「ボーやん……」
「でもな、熱くなってただ突っ込んでも状況が良くなるわけじゃないぞ」
「……何か考えがあるのですな、ボータ殿」
ヴェッカの言葉に俺は一つ頷いてからカヤちゃんの方を見つめる。
「ふぇ? あ、あの……何ですか? そ、そのボータさん、急にその……真面目な顔で見つめられると照れちゃいますよぉ」
もじもじする姿をしばらく堪能していたいとも思うが、今はそれどころではない。
「カヤちゃん、君に頼みがあるんだよ」
「……頼み、ですか?」
「そ、君なら誰にも見つかることなく城に潜入することができるだろ?」
俺のその言葉に、ビーとヴェッカが衝撃を受けたような表情を浮かべる。
「せ、せやで! カヤは幽霊なんや! 防壁とかも関係あらへん!」
「し、しかしボータ殿、カヤ殿は幽霊とはいえこうして視認できますぞ?」
「それについても大丈夫だ。カヤちゃん、存在は限りなく薄くできるよな?」
「あ、はい。こう、ですか」
と言うと、彼女の存在感が徐々に希薄になっていく。そして霊感のない者には認知できなくなる。
「む? カヤ殿の姿が見えん」
「ボクは見えるよー」
「ウチもやな。まあ、ウチらは人間ちゃうし、霊の存在も敏感に察知できるしな」
ヴェッカはまったくカヤちゃんの存在を感じることはできないが、他の二人は感知することができるようだ。
俺も気合入れて目を凝らせばようやく見える感じだ。ヴェッカよりは霊感に優れているのだろう。
「その状態で城に潜入調査をしてほしいんだけど、できる?」
スーっと再び姿を見えるようにしたカヤちゃん。
「あ、はいです! ビーちゃんはグレイクさんを助けたいんですよね!」
「せやけど、ホンマにええんか? 気づかれへんかもしれへんけど、危険は危険やで」
「大丈夫です! 私だって皆さんのお役に立ちたいですから!」
策を授けた張本人の俺ではあるが、確かに不安はある。城に霊感の優れた奴がいればバレる可能性が高いから。
ただまあ、単純な物理攻撃などは彼女に効かないし、いざとなったら……。
「カヤちゃん、危ない時は迷わずアレを使いなよ?」
彼女に近づき、耳元でそう呟く。
「あ、はい。分かっています。心配してくれてありがとうございます、ボータさん」
アレとはもちろん〝外道札〟のことだ。彼女とポチにはいつも持たせてある。
俺は〝外道札〟がある位置を特定できるので、彼女がそれを持ち続けていれば、彼女本人がどこにいるか分かるのだ。
何か変な動きがあれば、そのおかしさにも気づくことができるだろう。
その時は迷わずに城へと突っ込み、彼女を救出して逃亡を図ればいい。できればそんなことにはなってほしくないが。
「それじゃカヤちゃん、潜入調査頼むな!」
「はい! この不肖カヤ! 粉骨砕身全力全開で潜入してきます!」
果たして幽霊に砕かれる骨が存在するのか、という議論はいいとして、俺たちはこの場でカヤちゃんが帰ってくるのを待つことにした。
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