第57話 衝撃事実
白紙だった札にイラストと字が刻まれ、効果を発揮する。
俺は少なくとも目の前に立つ兵士たちが気づいていないことを知りほくそ笑む。後ろでは、魔力感知に敏感なのかビーやヴェッカはハッとしている様子ではあるが。
しかし俺が何をしたかまでは分かっていないのは確実だろう。
とにかく今は時間が惜しい。
「……何だいきなり、何もないじゃないか」
「あーすいません。勘違いだったみたいっすね」
「はぁ、もういいからさっさと立ち去れ」
鬱陶しげに手を振る兵士に対し、俺は腕を組みながら独り言のように呟く。
「いやぁ、それにしてもグレイク様は素晴らしいお方ですよね」
「っ!? 何だ急に?」
「何せ先代の国王様の重臣として関所を守る役を仰せつかってたんすから」
「それは……まあそうだが」
兵士がどことなく悔しそうな表情を浮かべる。俺の瞳が光った。
「どうしてそんな信頼のある重臣が、今や牢屋番なんてしてるんでしょうかねぇ」
「っ、そんなことお前には関係ないと思うが?」
厳しく言い放つ彼の心の声が聞こえてくる。
“そうだ。そうだよ。何で俺たちの英雄が牢屋番なんか……。くっ、これもすべては、最近ガンプ様に召し抱えられたあのクソ野郎が来てからおかしくなったんだ!”
……クソ野郎?
そういえば、と思い出す。地下牢でグレイクが言っていた言葉を思い出す。
『それにこの国を変えちまったのは現国王だけじゃなくアイツが……』
すぐに彼ははぐらかしたが、気になっていた言葉でもある。
「ああ、そういえば最近国王様のお気に入りの臣下がいましたよね。名前は確か……」
「は? 何を言ってるんだお前は?」
しかし心の声はすでに俺へ解答を示していた。
“このガキ、あのイオムを知ってるのか? まだそれほど民に名が知れてるわけでもないのに”
おっと、どうやらこれ以上ツッコむとまずそうだ。ここは話を変えた方が良い。
「あ、思い出しました! 確かグレイク様の子供さんじゃなかったでしたっけ?」
「子供? ……グレイクさんの子供は武者修行でいないはず……って、何を言わせるんだ!」
話を逸らせた上に新情報まであんがとよ。
それにしてもイオムって奴が、グレイクも懸念してたクソ女ってことか。
よし、時間も限られてるし、ここらでラストスパートだ。
「いいか、これ以上煩わせるなら本当に許さんぞ!」
他の兵士たちも俺のことをウザイと思い始めたのか敵意が増す。
「最後に一つ! どうしてもグレイク様が今何をなさっているか知りたいんすよ! どうかこの通り、教えてください!」
「うるさい! さっさと向こうへ行けっ!」
「うへぇ! 危ねぇっ!? い、いきなり槍を振るうことないでしょうが!」
「黙れ! 次はないぞ?」
「ひぃぃぃ~っ」
とわざとらしく声を上げながら、俺は後ろにいる皆を連れてその場を離れた。
「ちょっ、ボーやん! 何逃げてんねん!? つうかアンタな、どうでもいい話しかしとらんかったやんけ!」
「大丈夫だって。ちゃんと説明すっから、今は俺を信じてくれ」
そう言いながら、兵士たちの眼が届かないところまで逃げる。その最中、俺は先程兵士の心が言っていた言葉を思い出しながら。
“グレイク様が今何しているかだと? ふん、イオムの奴に謀反の汚名をきせられて大変だって言えるわけがないだろうが!”
俺はどうにもキナ臭い感じになってきたことに浅く溜め息を吐いてしまった。
「――――んで? 説明してほしいんやけど」
城から離れた建物の壁を背にしている俺に、ビーが険しい目つきで言ってきた。
「私も気になります。あのグレイク殿が約束を一方的に反故にするとは思えませぬ。何か気づいたことがあるのであれば教えてほしいです」
グレイクを認めているヴェッカもまた彼のことが気になっているようだ。
しかしどうするべき、か。
カヤちゃんやポチ、それにまあビーになら俺の能力を明かしても安心はしている。ビーはカヤちゃんの家族みたいな存在だから。
ただ問題はヴェッカ。彼女とはほとんど初対面といっても過言ではない。人となりはある程度分かっているが、俺が信を置くにはまだ接している時間が足りない。
それなのに《外道魔術》のことを言ってもいいものか……。
ここは――仕方ない。
俺はカヤちゃんに目配せをする。彼女はキョトンとしていたが、すぐに視線を切って話し始める。
「実はさっき、俺はある《霊具》を使ったんだ」
「《霊具》……ですか?」
「そ、たまたま手に入れたやつで、短い時間だけど心が読めるっつう優れもの。まあ、一回限りのやつだけどな」
「心を読む? 確かにそないな強力な《霊具》やったら使い捨てタイプなんは分かるんやけど、それにしてはアホみたいな魔力を放っとったしなぁ」
やはり〝外道札〟に込められた魔力を感知していたようだ。
カヤちゃんは、先の目配せで俺の考えを察知してくれたようで、余計なことを言わず黙っててくれている。またポチはというと、よく分からないのかポカンとしていた。
「まあ俺もよく分からんで使ったしな。けどそのお蔭でいろいろな情報が手に入った」
「…………」
何だか探るような目つきをするヴェッカは気になるけれど、ビーの方はその情報が何なのか気になるようで尋ねてきた。
俺は皆に手に入れた情報を教えてやる。
「――何やてっ!? グレイクが謀反!?」
「らしいぞ。最近臣下になったイオムってやつが王に進言でもしたんじゃねぇか?」
「アイツが謀反なんてするかいな! 何かの間違いに決まってるやんけっ!」
「うぐ……いや、いきなり俺の胸倉掴まれてもぉ!」
「あ、ああ……すまんボーやん」
ついカッとなってしまったようで、ビーが我に返って手を放してくれる。
「ふぅ、ビーの気持ちは分かる。俺だって地下牢で会ったあのおっちゃんが国賊になるようなことをするとは思えねぇ」
心底この国のことを思い、従属の意志を示したいた彼なのだ。それに王を自分が変えてやるとまで言っていた。
そんな人物が、王を蔑にするような選択を取るだろうか。
「ビーはそのグレイクのおっちゃんを謀反人って決めつけたらしいイオムって奴がどんなんか知ってるのか?」
「名前くらいは、やな。ただ奴が来てから賊討伐が速やかに行えるようになったとか噂はあるけど」
「……最近臣下に入ったのに、もう王のお気に入りらしいし、余程優秀なんだろうな。武官なのか?」
「ちゃうと思うで。もし武官ならもっと噂になっとってもええしな」
「なら文官ってことか。政務に長けてるのか、いや、賊討伐がスムーズってことはもしかすると軍師扱いか?」
「おお、ボータ殿もそう思いましたか。私もイオムという輩はそうなのではと考えますぞ」
ヴェッカと考えが一致したようだ。
ただそれにしては、先日見た【リンドン王国】の部隊による賊討伐はただ数によって押すだけの単純な力任せだったように思える。
まあ、賊の規模も大したことなかったし、軍師が出張るまでもなかったっていうことだろうな。
「ねえねえボータ、関所はどうするのぉ?」
ポチの言う通りだ。このままでは通行手形を発行してもらえないので、関所を問題なく通過することができない。
もういっそのこと〝外道札〟を使うという手もあるにはるが……。
これから何があるか分かんねぇから温存しときたいんだよなぁ。
しかし最悪使うことになるだろうことは視野に入れておこう。
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