第59話 カヤの潜入ミッション1

 わたしはやる気満々だった。



 何故なら今までボータさんたちと一緒に旅をしていて、何かを頼られるということがあまりなかったからである。



 だから今回の潜入調査を頼まれた時、やっと自分もボータさんの役に立てると思って嬉しかったのだ。

 久しぶりに幽霊で良かったと思った瞬間だった。



 わたしは意気揚々と、城の方へ向かい存在感を最大限に希薄にしてから。



 ……おじゃましまぁす。



 と心の中で言ってから城門を擦り抜けていく。

 門の前に立っている兵士たちはわたしの気配に誰も気づいていない。



 あ、でもどこに行けばいいんでしょうか?



 それをボータさんに聞くのを忘れていたことを思い出し、空中でフワフワと浮きながら思案していると……。



「なあ、本当にグレイク様が謀反なんて起こすと思うか?」

「そんなわけないと俺は思うぞ」



 前方から二人の兵士が会話をしながら歩いてきていた。

 何か情報が得られるかと思い耳を傾けることに。



「だよな。イオム様は一体何を根拠にそんなことを……」

「あ、それなんだけどよ。何でも牢屋番にされたことを恨んで、報復を企んでるってイオム様が国王様に進言なされたようだぞ」

「確かに一悶着あったもんなぁ。あのグレイク様が牢屋番に降格された時は、それに反発した兵たちも結構処罰されたしな。ったく、ガンプ様は何も分かってねえ」

「おい、あまり滅多なことを口にするなよ。誰に聞かれてるか分かんねえんだし」

「けどよ、正直俺も納得はいってねえんだよ。グレイク様が進言された関所防衛の増強は必要だと思うし、あれは処分されるような進言じゃなかったはずだ」

「ま、まあ確かにな。それに今回の謀反だって、あのグレイク様がするなんて思えねえし」

「今も謁見の間でグレイク様が国王様に弁明をしているんだろ?」

「らしいぞ」



 これは良いことを聞きました。グレイクさんは謁見の間におられるんですね。



「まさか処刑なんてされねえだろうなぁ。」

「さすがにそれはないだろう。処刑ってことになると民たちにも広めないといけないし、民にも人気なグレイク様を処刑なんてことになったら反発勢力が下手すりゃ暴動を起こすかもしれないし」

「だよな。牢屋番をしてるっていうことだって、民たちに知れたら結構な問題になると思うし」



 しかしいつまでも牢屋番にしても隠し通せはしないだろう。



 優秀な人材を適材適所に扱えない君主に不満を持つ者たちが出てくるのは至極当然だと思う。

 わたしは思わぬ情報を聞いて、すぐに謁見の間を探し始めた。



 壁を擦り抜けながら次々と部屋を物色していき、そして――。



 あ、グレイクさんです!



 大広間に出た瞬間、王座の前に立つ人物を発見し、それがグレイクだということを確認した。

 両手にはすでに手錠がハメられてあり、彼の周りにはいつでも取り押さえられるようにか、兵士が数人で囲んでいる。



 王座にはでっぷりと太った男の人が座っていて、熱くもないのに汗を噴き出させ左側に立つ侍女に拭ってもらっている光景が映っていた。



 あの人がこの【リンドン王国】の王様……ガンプ国王様なんですね。



 そこで彼の瞳を見て少しだけ気になったことがあった。

 何でしょうか、眼がどんよりとしてる感じがします。

 眼の焦点は合っていると思うが、何か別のことを考えているような不思議な感じ。気のせいだろうか。



 そして王様の右側に立っている一人の人物に自然と目がいく。



 ……お若いですね。あの人がイオムって人でしょうか? 



 国王様のお気に入りの臣下だと聞いていたので、勝手な予想で厳格そうな中年の男性かなと思っていたが、見た目は二十歳に届くか届かないという少年のような風貌をしていた。



 白い髪に銀の双眸。真っ黒な装束を着込み、物言わず置物のように立っている。

 ただ佇まいからは冷然としたものを感じ、目つきも氷のように冷たさを覚えた。

 眼下で必死に弁明をしているグレイクさんを、まるでその辺の石ころでも見るような視線だ。



 何だか……怖いです。



 自分以外はすべて価値のない存在だとでもいうような雰囲気を醸し出す少年に対し、わたしは見るだけで恐怖した。



「ガンプ王! 聞いてください! 何度も言いますが俺は国を裏切るつもりは毛頭ありません!」

「へぇへぇ、けどねぇ……こっちにはお前が謀反を企ててるって言う奴がいるんだよねぇ」



 王様が視線をチラリと白髪の少年へと移す。

 その態度にギリッと歯を噛み鳴らすグレイクさん。



「王! 長年この国に仕えてきた俺よりも、そいつの言い分を信じるのですか!」

「そう言ってもねぇ……。ほら、イオムからも言ってやれよぉ」

「はっ」



 やはりあの少年がイオムって人だったようだ。

 彼は一歩前に出ると口を開く。



「これが証拠だよ。グレイク・ドライセン」



 そう言いながら、懐から出した何かを彼の目の前に投げつけた。



 ――バサッ。



 それは紙の束。グレイクは視線を紙に落とし、それを拾い上げる。



「――――っ!?」

「分かったかい? それは君が秘匿してきた他領の諸侯からの勧誘状だよね?」

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