第49話 追われる望太
「え……ど、どうしたんだ急に怒鳴って?」
「いいから答えろや! それは《司気棒》やろがっ!」
「そ、そうだけど……」
何故急に少女が明らかな怒りをぶつけてきているのかサッパリ分からない。
「! やっぱか……。んならアンタ、それをどこで盗んできたんや?」
「はあ!? 盗んでねぇし!」
「嘘つくなや! それはな、世界に一つしかあらへんもんや! それがここにあるっつうことはな、アンタが盗んだっちゅうことやないかぁ!」
いきなり少女が、腰に携えている短剣を抜き切っ先を向けてくる。敵意から殺意へと変化し始めていることに気づき俺は焦りを覚えた。
ちょ、何これ!? 何でさっきまで和やかムードだったのに、いきなり殺伐とした感じに!?
「お、落ち着いてくれって! 俺はこれをもらったんだから!」
「はんっ、嘘と冗談ならもっとおもろいもんにしとき! まったく笑えへんで?」
「いや、嘘でも冗談でもねぇから!」
「問答無用や。それをこっちに渡しぃ。渡さへんって言うんやったら縊り殺すだけや」
怖いぃぃぃっ!? 何? 何なのこの暴走娘はぁ!? めっちゃ怖いんですけどぉぉ!?
俺は咄嗟に両手を上げて後ずさる。少女が台を乗り越えて、切っ先を突きつけたまま近づいてくるしヤバイくらい身体が震えてきた。
まだ子供のはずなのに、彼女から発せられる狂気とも呼ぶべきオーラが半端じゃない。それこそあのポチの戦闘モードといい勝負だ。
何故俺が知り合う奴は規格外が多いんだぁぁぁ!?
桃爺、ポチ、チェルニ、ヴェッカ、そして……この少女。
誰一人としてまともに戦って勝てるとは思えないほど強い。
何の因果なんだろうか……?
「と、とにかく話を聞いてくれっちゅうに! 俺は盗人なんかじゃねぇ!」
「ざけんな! せやったら何でそれを持ってんねん!」
「だーかーら、もらったって言ってんだろうがよぉ!」
「それがありえへん言うとんねんっ!」
「ぬわぁっ! あ、危ねぇじゃねぇか!?」
いきなり短剣を振ってきたので屈んで避けた。
「! ……ウチの剣を避けた、やと?」
ギロリと怪しい奴を見るような視線で睨みつけてくる。
「手加減しとったけど、普通の奴なら今ので死んでたはずやで?」
「そんな危ねぇ攻撃繰り出すなよアホッ!」
「んなっ!? アホちゃうわ! はあっ!」
「おっと!?」
「避けんなやっ!」
「避けるわっ!」
じゃないと死ぬだろうがよぉ!
とはいっても避けると益々彼女の怒りのボルテージが上がっていく。
けど当たったら死ぬしな…………ここは――。
「撤退あるのみっ!」
「あっ、待ちぃ!」
待つわけがない。俺はその場から脱兎のごとく逃げ出した。
街を駆け回りながら逃げるのはいいのだが……。
「ひあぁぁぁっ!?」
「あんぎゃぁぁぁぁっ!?」
「きゃあぁぁぁぁっ!?」
そこかしこから悲鳴が聞こえてくる。それもそのはずだろう。
何故なら――。
「待ちぃって言ってんやろがっ!」
三日月の形をした斬撃が俺の背後から飛んでくるが、ヒョイッと避ける。
俺の前方にある壁。その前に置かれている樽に向かって斬撃がそのまま飛んでいき、樽を破壊し、その破片を周囲へ跳び散らす。
そしてその破片と音が近くにいる住民たちを襲う。しかし不思議にも破片の被害を受けた住民たちはいないようだ。
「な、何だ今の音はぁ!?」
すみません、俺たちです。本当に申し訳ない。
こっちとしても騒ぎを起こしたくはないけど……。
「避けんな言うとるやろボケェッ!?」
そう、無理なんです。だって聞く耳持たない獣人少女が物凄い形相で襲ってくるんですもの。
ていうか斬撃って飛ばせたんですね。さすがはファンタジーです。憧れます。
ただそれが自分に向いてなければなお良かったのですが。
「ああもう! 誤解だっつってんだろうがぁぁっ!」
人がいる場所へ行けば、さすがに自重して攻撃をしてこないと思っていたのに、そんなことはお構いなしとばかりだ。
というよりもキレていて周りの状況を理解できていない様子だ。
「ちょこまかちょこまか鬱陶しい奴やな! 何やそのアホらしい回避能力は! こう見えてもウチはごっつ強いんやで!」
知らんがな! そもそも一撃でも当たると死んじまうから!
「あないな小物に使いたないけど、しゃあないわ!」
すると背後から追いかけてくる少女の雰囲気がガラッと変わる。
空気が一気に冷えたように緊張感が張りつめていく。冷や汗がドッと噴き出る。
一体何をしようというのか……?
気になり走りながらチラリと後ろを確認してみる。
彼女は自身の髪をブチッと何本か引き抜くと、それをふぅっと息を吹きかけて空へと飛ばす。
同時に髪一本一本がボボンッと煙に包まれたかと思ったら――。
「げっ、そんなのありかよぉっ!?」
どういう原理か、髪が少女に変化して追いかけてきた。
「これが《
「は、反則ぅぅぅぅっ!?」
四方八方から少女が迫ってくる。逃げ場を完全に塞がれてしまった。
「にょわ!? おおう!? ひえっ!? ふぅっ!?」
「な、何やねん!? 何で捕まえられへんねん!?」
俺は次々と手を伸ばしてくる少女たちから紙一重にかわしていく。
「くっ、全然強見えへんのに、どないなっとんねん!?」
それは今の状況に対して俺が叫びたい言葉だよ! 本当に何故こうなった!?
何度攻撃を繰り出しても俺が避けまくるものだから、とうとう痺れを切らしたかのように、少女全員がピタリを足を止めて、俺の周りを囲い出す。
ああ、美少女に囲まれるのはすっごく嬉しいのに。できれば殺意がなけりゃ良かった。
「盗人やけど、人間離れした回避能力だけは認めてやるで。ホンマ凄いわ」
「ほ、褒めてくれるなら話を聞いてほしいなぁ」
「せやけどこっちも譲れんもんがあんねん! ただの盗人なら関係あらへんけど、それを持っとるのは許せへん」
ああ、やっぱりまだ続きそう……。
少女全員の瞳が獰猛に輝き、それぞれが手に持った短剣が赤く光り出す。正直その威圧感だけでチビりそうだ。
な、何か物凄くヤバイ攻撃をされそうな……。こ、こうなったら〝外界移し〟を使って建物の中に逃げ込むか。
力を見せるのはもっと興味を惹かせてしまうと考え控えていたが、こうなったら仕方がないだろう。命が一番大事だし。
そう判断し、俺が魔術を使って逃亡を図ろうとしたその時――。
「――――こらぁぁぁーっ! ボクのボータをいじめるなぁぁぁっ!」
建物の上から小さな人影が跳び下りてきて、俺の前に降り立った。
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