第48話 関西弁の少女?

 ――【リンドン王国】。



 北と西の大陸を分かつ関所がある国で、北大陸では一番大きな街を築いている。

 多くの人が関所を利用するので、商人も多く商売が盛んな国家だ。特に露天商の数は北大陸随一。

 辿り着いた俺たちも、かなりの活気に目を見張ってしまっていた。



「ほえぇぇ~、お店がいっぱいですね~!」

「食べ物は!? 食べ物はあるかな!?」



 カヤちゃんは市場がと思うほど多い店に目を奪われ感動しており、ポチは鼻をひくつかせさっそく食べ物屋を探している。



「いや、久々にこの国に足を運びましたがさすがの賑わいですな」



 ここまでともにやって来たヴェッカもまた活気に当てられたのか顔を綻ばせている。



 まるでフリーマーケットだなこりゃ。



 それも大規模の。

 食材はもちろんのこと、武器や本、服や装飾品などの多種多様の露店が視界に映る。

 ここに来れば見つからないものなどないのではと思わせるほどだ。



 この国は南の関所側に城があり、さらにその南に関所が設置されていて兵が常駐して見張りをしている。

 東には宿屋や住宅街が広がっていて、北から西側のエリアはズラーッと様々な店が立ち並んでいるのだ。



「ボータ殿、すぐに関所を抜けられるのですかな?」

「いいや、ここでちょっとやることがあってな。だからまずは宿探し」

「ふむ。ではともに参りましょう」

「いいのか? 別に俺たちに合わせなくても先に旅に出てもいいんだぞ?」

「おやおや、つれないお言葉ですな。ボータ殿は、美しい女とともに旅をしたいと思っては頂けないのですかな?」

「いえ、大歓迎です」



 グーサインをして真面目な顔で答えると、「ぷっ」とすぐに息を漏らしてヴェッカが笑う。



「あはは、せっかくからかおうと思ったのですが、ボータ殿には通じなかったようです」

「いやぁ、本音だぞ?」

「ふむ……ではお言葉を信じると致しましょう。しばらくは一緒でいいですか?」

「いいぞー。何なら宿の部屋も一緒でぶふっ!? ……痛いじゃないか、カヤちゃん」



 後ろからカヤちゃんが、広辞苑かと思うほど大きな本を俺の頭の上に落としていた。思わず鞭打ちになりそうだ。



「もうボータさん、女性にそんな軽い発言はいけませんよぉ」

「何を言うんだカヤちゃん! たとえ断られるとしても言うだけならタダじゃないか!」

「それで関係がギクシャクしたらどうするんですか!」

「う……そ、それはほら、時間が解決するというか……」

「ボータさんは少し節操がないですよ。可愛い女の子にすぐ目移りするのは男の子としてしょうがないのかもしれませんけど、いきなり同じ部屋に誘うとかさすがに常識から言ってですね」



 あーしまった。説教が始まってしまった。



 カヤちゃんてば、結構貞操観念が強い。だから女性に簡単に声をかけてしまう俺の態度を良しとしないのだろう。



 別にそこまでナンパ野郎じゃねぇんだけどなぁ。



 基本的にまったくの初対面にはいきなり声かけたりはしない……と思うし。あーでもヴェッカやカヤちゃんみたいな稀代の美少女だと分からんなぁ。

 男としての本能で近づいてしまうかもしれん。



「――ですからボータさんはですね、って聞いてるんですかボータさん?」

「あ、うん、聞いてる聞いてる。んなことよりカヤちゃん、ポチはどこ行った?」

「ふぇ? ポチちゃんならここに…………あれ?」



 すでに俺たちの傍には小さき暴食王の姿はどこにもなかった。



「ポチ殿ならあそこですぞ」



 ヴェッカが指を差した先。そこは一件の店であり、豚の丸焼きを焼いている店主の姿にポチは釘付けになっていた。瞳は銀河のように輝き、口からは滝のように涎を流している。



「あーカヤちゃん、適当にアイツに飯を食わせてやっといてくれ。俺は宿を探す。あ、ヴェッカはどうする? 宿なら代わりに取っておいてやるけど」

「ボータさん?」

「そ、そんな怖い顔しなくてもちゃんと三つの部屋を取るから!」



 当たり前じゃねぇか! それにさっきのは冗談半分……冗談二割くらいだったし。



 つまりは結構期待していたが、そんなことは口が裂けても言えない。



「ふむ。では宿の方はボータ殿にお任せして、私は彼女たちと居りましょう」

「おう、じゃあ頼むな」



 旅慣れしていて常識人でもあるヴェッカが傍についていれば問題が起こっても対処してくれるだろう。

 俺はそう判断して宿探しへと向かう。



 住宅エリアは比較的静かなもので、それほど人気は多くない。閑静な住宅街といえるだろう。

 人に聞いたところによると、赤い屋根が特徴の宿屋があるとのことだが……。



「なかなか見つからんなぁ」



 ま、別に急いでるわけじゃねぇし、ゆっくり探すか。



 そう思いながら歩いていると――。



「――おっと、そこの兄ちゃん、ちょいと見て行ってくれへんか!」



 …………はい?



 真っ直ぐに伸びた路地を歩いていた時、右側から気安く声をかけられた。

 それだけでも驚くことだが、何よりも……。



「いやぁ、ええ商品入っとるで! 見てってぇな~!」



 何故に関西弁……?



 しかもさらに目を引く部分がある。



「ん? 何や兄ちゃん、そないあっつい視線ぶつけられても一切マケへんで? にゃははは」



 屈託なく笑う美少女ということもさることながら、臀部近くからチラチラと顔を覗かせている細長い尻尾である。当然普通の人間はそんなものは持たない。



 ……魔物?



 つまりポチと似た存在なのだろうかと思い、少女を観察する。

 頭を黄色いバンダナで覆い、そこから茶色い髪が確認できた。好奇心の強そうなネコ目に近い碧眼で、十四歳くらいの幼さが強く残る美少女だ。



 一見腹出しルックに、腰に携えている二本の短刀のせいか女盗賊風の装いに見えてしまう。



「んあ? えっと、もしかしてやけど、兄ちゃん……獣人はアカンタイプ?」

「へ?」

「だって反応返してくれへんで、ジッと見てるだけやし」

「ああ、悪い悪い。ちょっと見惚れてた」

「え!? み、見惚れて……た? にゃはは、面白いこと言う兄ちゃんやな。ウチってそないに魅力的なんか?」

「おう、まさしく美少女だぜ!」

「…………」



 俺がグーサインを向けて自信満々に言うと、彼女は一瞬呆けた様子を見せる。だがすぐに砕けた顔をして笑う。



「にゃははは! まいったなぁ! そないハッキリ言われるんはちょっと恥ずかしいやんか! でもあんがとなぁ!」



 何というか気さくな感じでとっつきやすい子である。



 それにしても……。



「これって君が作ったんか?」



 少女の前には細長い台が置かれていて、そこにはずらーっと武器が並べられている。

 剣、刀、鞭、ナイフ、斧などなど。



「せやで。ウチはこう見えても鍛冶職人やしな!」

「へぇ、その歳で立派じゃんか」

「もう、褒めてもマケへんからな」



 そう言っている彼女もにへらと嬉しそうに笑っている。

 俺が言った言葉は本心だ。武器に詳しいってわけではないけれど、ここに置かれている代物は見る限りまともそうだし、売り物としては問題ないように思えた。



「どやどや? 何か買っていけへん?」

「ん~武器なぁ」

「この世の中、こういったものは必需品やで。兄ちゃんってば、ここらへんで見ぃひんし旅人やろ? せやったら絶対これは役に立つ思うで!」



 確かに魔物とかが普通に棲息する世界で旅するには、武器は必需品になるだろう。

 ただすでに俺には《司気棒》がある。



「悪いけどな、俺にはもう愛用の武器があってさ」

「ほへ? ……どこにそないなもんがあるんや?」

「これだよこれ」



 そう言って、後ろ越しに差している《司気棒》を取って見せてやった。

 すると何故か少女は大きく目を見開き、《司気棒》を凝視する。



「っ……嘘やろ……!? 何でや?」

「はい?」

「何でそれがこないなとこにあんねんっ!」



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