第50話 助っ人のポチ
「お、おお!? ポチィィィッ!?」
ナイスタイミングで突入してきた彼女に感動で涙が出た。思わず彼女を抱きしめたくらいだ。
「くぅ~ん、ちょっとくすぐったいよぉ、ボータァ~」
そうは言うが、彼女も嬉しそうで「にへへ~」と笑っている。
俺も嬉しくて彼女の頭をナデナデナデナデナデ。
ただその光景を信じられないといった面持ちで少女が見つめていた。何故か周りにいた少女は煙となって消え、本体であろう一人だけがそこに立っている。
そして――。
「な、な、な、な、何でお前がここにおんねんっ、ポチィィィッ!?」
「「……ほえ?」」
俺とポチが思わずハモってしまった。
すると少女の顔を見たポチが「あっ」となって口を開く。
「あれぇ? ……ビー? 何でいるのぉ?」
「それはこっちのセリフや! 何でお前がおんねん! つうかその男と知り合いなんか!?」
「へへ~ん。いいでしょー」
「よかないわ! 説明せぇ!」
どうやら二人は知り合いのようだ。
繋がりは分からないが、命の危機が去ったようでホッとする。
だが……。
「うっさいなぁ、ビーは」
「んな!? うっさいって何や!?」
「だって! ボータをいじめたしギャーギャーうるさいし!」
「そ、それはだってそいつが《司気棒》を盗んだ盗人やからや!」
「ボータは盗人なんかじゃないもん! あっち行ってよ、バーカ!」
「なっ!? バカって言う方がバカなんや!」
「違うもん! バカって言う方がバカって言う方がバカだしぃ!」
「何やとぉ!」
「何だよぉ!」
……どうしようこれ。いきなりバカらしい喧嘩が始まってしまった。
けどちょっと待てよ。これ助かったと思ったけど、もしここで二人がガチバトルなんてしたらこの国崩壊すんじゃね?
んで、間違いなく俺巻き込まれるよな?
ていうかこの二人仲悪い。俺が原因っぽい言い合いなんだけど、何となく馬が合っていないような気がする。
「あー、二人とも穏便に、な」
「「うっさいっ!」」
うん、聞く耳持たんか。多分そうじゃねぇかなぁって思ったけどな……はぁ。
すると騒ぎを聞きつけたのか、ゾロゾロと鎧姿の衛兵らしき男たちが現れて囲い出した。
うわ、こりゃちょっとまずくね?
「お前たちか! ここで騒ぎを起こしているというのは! 大人しく縄につけ!」
ええ、こんなことで捕まるの!?
とか思ったけど、確かに少女の攻撃によって被害を受けた建物や人などが甚大だったため、仕方のない対処ではある。
「何やアンタら! 邪魔すんねんやったら全員ここで――」
「あーわっかりましたぁ! そこの可愛らしい獣人ちゃんとポチもそこで大人しくしてくれよ」
「ええー」
「ちょ、可愛えって今更ご機嫌とっても嬉しかないわ!」
とは言いつつも、若干尻尾が喜んでいるかのように揺れているのはツッコんだらいけないんだろうな、多分。
「とにかく刃向うならばそれ相応の対処をするからそのつもりでいろ!」
「あーはいはい、衛兵さん。刃向わねぇからちゃっちゃと連行してくれ」
俺の言うことを聞いてポチはともかく、少女もまた冷静になって自分が街にしたことに気づいたのか、大人しく両手に縄をつけられていた。
俺たちは周囲を衛兵たちに囲まれながら、城がある方へと連れられていく。
「ねえねえボータ、ほんとにこのままついてっていいの?」
「いいのいいの。下手に抵抗したら国境を越え難くなったりするしな」
そう、それが懸念だった。
別にポチの力を駆使すれば力ずくでどうとでもなるだろう。国境だって超えられる。
しかし結果、指名手配される可能性が高い。別に人を殺したわけではないので、多少のお咎めはあろうが、それだけで解放されるならば大人しくしていた方が良いと判断した。
最悪ポチが傍にいれば何とでもなりそうだし。
「ったく、何でウチがこないなことに」
うわぁ、睨んできてますがな。擬音にするとギロリ……だな、確実に。
「おい、私語は慎め!」
注意をされて俺たちは押し黙る。
どうやらポチは一人で俺のところに来てくれたようだ。
幸いなのはここにカヤちゃんとヴェッカがいないことである。カヤちゃんに渡している〝外道札〟の反応から、どうやら騒ぎを聞きつけて、先程俺たちが捕まった場所へ移動を開始しているようだ。
そこで恐らくだが、俺たちに何が起こったのか知ることができるだろう。
カヤちゃんたちには悪いけど、ちょっと待ってもらっとく必要があるな。悪いな、カヤちゃん。
謝罪を心に浮かべながら俺たちは城へと入っていった。
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