第43話 超常の闘い

「はあぁっ! てやぁっ! ったぁっ!」



 鋭い槍捌き、神速のごときヴェッカの突きがポチに襲い掛かる。



 明らかに先程の賊との時以上の気迫だ。



 ポチは軽やかな身のこなしで回避し、カウンター気味に拳や蹴りを放つが、ヴェッカもまた槍で防御したり身体を捻ってかわす。



 手合せが始まって十秒ほどで、まずは準備運動のように、互いに力量を確かめる感じで槍と拳を交えていたが、すぐに両者ともそれぞれの相手が只者ではないことを察したようで顔つきが変わって攻撃の鋭さが増した。



 互いに攻撃を放つも、決定打にならずすでに一分以上は打ち合っている。



「ほ、ほえぇぇぇ~、す、凄いですぅ~!」

「ああ、奴らはきっと人間じゃねぇな」



 まあ、ポチは人間じゃねぇけど。



 俺とカヤちゃんは、二人の明らかに人間離れした動きにただただ感心するしかない。



「で、でもポチちゃんの攻撃をボータさんも簡単に避けますよね?」

「簡単じゃないからね。命がけだから、いつも」



 何せ一撃でもくらったら後遺症が残るのではと思うほどの痛烈な衝撃力を備えているのだから。

 二人が一瞬のうちに交差して互いに背を向ける。



 ピッ、ピッ。



 両者の頬に赤い筋が同時に走る。そのまま二人が不敵に笑みを浮かべ、その場から消えた。

 いや、消えたように見えるほどの素早い動き。



「ふぇ!? ど、どこに!?」

「上だよ」



 俺がカヤちゃんに教えてやると、彼女も上を向きポチたちの姿を捉える。



 よく空中でそんなに動くことができるなと思うほど、ポチたちは空中で攻防を繰り返す。



 うわぁ、まるでバトルアニメシーンじゃん、これ。



 大気が異様に震え、緊張感が場を支配していく。

 ヴェッカの一閃が大地を斬り岩を貫く。



 ポチの一撃が大地を割り岩を砕く。

 どれも普通の人間が受けると恐らくは絶命するほどの威力を備えている。



 こ、これ、手合せだよな?



 明らかにそのレベルを超えていそうだ。

 しかし俺たちの心配をよそに、二人は楽しそうに笑みさえ浮かべている。余程このバトルに喜びを見い出している様子。



「~~~~っ! ヴェッカ強い! 楽しい!」

「それは結構なことですぞ! 私もまた胸が躍る!」

「うぅ~! ならもうちょっと本気出すからね!」

「! 底が見えないと思えば、やはりまだ先がござったか」



 地上に降りてきた二人は、一定の距離を保って牽制し合っている。



 ポチが両拳に纏わせている青白い魔力の密度がさらに濃くなっていく。



 おいおい、マジモードになるつもりか!?



 ポチが両手を口元に当てて、上半身を少し後ろに反る格好をする。



「? 何のつもりかな?」

「へっへーん、いっくよー!」

「ちょ、それは待てポチィッ!」



 俺が制止をかけるが、すでにポチの発動準備は終えていて、彼女の両手に集った膨大な魔力が口内に集約し――



「――《咆哮波ほうこうは》っ!」



 まるでドラゴンが火を噴くように、ポチの口から魔力の塊がヴェッカへと放たれた。



「な――っ!?」



 塊は大地を容易く削りながら、前方に佇むヴェッカを呑み込もうと走る。

 ヴェッカは咄嗟にその場から左に大きく跳んで回避。



 俺は彼女が素晴らしい反射速度を見せて避けてくれたことにホッとする。

 それほどまでにポチの技――《咆哮波》はアホらしい威力を備えているのだ。



 それを証明するかのように、魔力の塊が走ったあとは何も残っていない。削った大地や、塊に触れたものはすべて消滅して、まるで神話に出てくるような巨大なドラゴンが、その爪を大地に走らせたような光景が生まれている。



 恐らくあれをまともに受けていたら、ヴェッカという存在は綺麗さっぱり消えていたのではないだろうか。



 だから……。



「こらぁぁぁっ、ポチィィィィィッ!」

「ひっ、ボ、ボータ!? な、何!?」

「何じゃねぇっ! 何ちゅうもんをただの手合せに使いやがるんだアホ! 相手を殺す気かぁ!」

「だ、だってぇ!」

「だってもくそもねぇ! それは敵意外に使うなって言い聞かせてるだろうが!」



 実は【最果ての山・冥ヶ山】で修行していた時に、彼女が今の技を嬉々として見せてくれたのだが、当然俺は簡単に使うなと言いつけた。



 相手が倒すべき敵ならば別にいいが、ただの手合せ程度で使用していい技じゃない。



「お前当分おやつ抜き!」

「ええっ!? や、やだよ! もうしないからぁ!」

「だったらちゃんと謝る!」

「ご、ごめぇん!」

「俺にじゃねぇ! ヴェッカにだ!」



 もう完全に泣きべそをかいているポチが、涙と鼻水を流しながらヴェッカに顔を向けて頭を下げる。



「ごむぇんにゃしゃぁぁい~っ」

「俺からも謝る! マジでごめんなさい!」

「あ、あわわわ! わたしも謝ります! ごめんなさい! ポチちゃんを許してあげてくださぁい!」

「い、いや……まあ、驚きはしたがそこまでせずとも……いいぞ?」



 死ぬところだったというのに何て優しい子だ。涙が出てくるぜ。



 というより戸惑いの方が大きくて現状をハッキリと理解できていないだけかもしれないが。

 突如として三人並んでの謝罪なのだから当然の反応かもしれない。


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