第41話 白き衣を纏う者たち
「――あ、ボータさんっ!」
河原に戻ると再びギョッとする光景がそこにあった。
ポチを抱え、岩を背にしたカヤちゃんの逃げ場を塞ぐように三人の男たちが立っている。
その手にはサーベルのような剣を持ち、ぐへへへへといやらしい笑みを浮かべていた。
「カヤちゃん!?」
男たちが俺の存在に気づいて意識を向ける。
……! こいつらさっきの……?
俺が眉をひそめたのは、男たちの姿がさっき見た白衣の者たちとそっくりだったからだ。
「ああ? ちっ、男かよ」
「でも金目のものを持ってそうだぜ」
「殺して奪っちまうか」
三人の男たちからは、どうも話し合いが通じなさそうな雰囲気を感じる。
しかし下手に刺激すれば、幽霊のカヤちゃんはともかく眠っているポチに刃が届くかもしれない。
……いや、正直に言うと寝てるポチでも大丈夫そうだけどさ。
それでも万が一があるかもしれないので放置はさすがにできない。
「あ~何が目的なんだ?」
「金目のものを全部出せ」
「……嫌って言ったら?」
「ククク、分からねえか?」
剣をちらつかせてくる。三人目が言ったように殺すつもりなのだろう。
「ていうかアンタらって一体何?」
「はあ? てめえ田舎もんか? ここらで俺らのこと知らねえわけがねえだろうが」
「あいにく世情には疎くてな。良かったら教えてもらいたいんだけど」
訝しそうに睨みつけてくる男たちに、俺は平静を装いながら佇む。
「ふん、まあいい。教えてやるぜ。俺らは――〝
「はくい……ろう?」
「そうよ! 白き衣を纏う気高き狼の群れ! それが俺らだ!」
なるほど、白衣の狼。だから〝白衣狼〟……ね。
どう見ても狼のような気高さは感じられないけど。
「そっかそっか。そのようなお方たちだったとは露知らず、この通り許してください」
俺が軽々しく頭を下げたことで、男たちはニヤリと笑みを浮かべる。
「だったら分かるよな? これは寄付みてえなもんなんだ。ほれ、さっさと出せよ」
「分かりました。んじゃこれを」
と、俺は腰に携えていた袋を右手に取った。
「よし、寄こせ」
「ハハハ、なよっちぃ奴で良かったぜ」
「だよな。これでしばらくは上納金にも困らねえかもな」
……上納金?
俺は笑みを浮かべながら近づいてくる男たちの言葉を記憶に刻んでおく。
男の一人が差し出した右手。袋を手渡せということだろう。
心配そうに俺を見ているカヤちゃんに、「安心しろ」というウィンクを一つ送って、後ろ手に回していた左手を動かそうとしたその時――。
「――――そこまでだっ、賊どもめっ!」
突如響いた甲高い声。
当然全員の意識がその声の持ち主へと向かう。
いつの間にか分からないが、カヤちゃんが背にしている大岩の上に一人の女性が立っていた。
青髪に黄色いキャップと同色の服という目立つ形の上、その手には二メートル以上は確実にある長槍が握られている。
「何だ何だ!?」
「だ、誰だてめえは!?」
「うっほぉ、あの女もえれえ別嬪じゃねえかぁ!?」
最後の男の言葉は的を射ていて、確かに男なら誰もが一度は振り返るほどのルックスをした、俺とそう変わらない年頃に見える少女だった。
「庶民から金を巻き上げるなど不届き千万! 儀の名のもとに、このヴェッカ・リャードが貴様らを成敗してくれる!」
何だかよく分からないが、正義の味方っぽい人が現れた。
しかしすぐに男たちはニヤニヤといやらしい顔つきになる。狙いは一目瞭然。
女性を手籠めにしようと企んでいるのだろう。美少女なのでお近づきになりたいという気持ちは分かるが、彼らは問答無用で事を成すつもりだ。その下卑た表情ですぐに分かる。
「おい姉ちゃん、大人しく武器を渡せ。そうしたら、そっちの子と一緒に可愛がってやるぞ?」
「そうそう、痛いことなんてしねえからよぉ」
「くふぅ、いい女が二人もいるなんてな。俺たちにも運が回ってきやがったぜ!」
少しも煩悩を包み隠そうとしない男たちに対し、少女はキリッとした表情を一切崩さず大岩から跳び下りた。
そのままゆっくりと男たちのもとへ歩いていく。槍を下げながら。
「お、素直じゃねえかぁ。ほれ、まずはその武器を――んあ?」
ほとんど見えなかった。
ただ銀の閃きが走ったと思ったら――。
「あっがぁぁぁぁぁぁっ!? お、おおおお俺の腕がぁぁぁっ!?」
男の差し出した右腕が肘から斬り飛ばされていた。
「な、何しやがるんだこの女ぁっ!」
他の男たちも憤慨して武器をふりかぶり少女を殺そうと迫るが――キンキンッ!
「「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
二人の男も腕を切断されて膝を地面につく。
そして少女が槍の切っ先を一人の男の喉元へ突きつける。
「その姿――〝白衣狼〟だな。民の幸せを奪う賊どもめ、来世はもう少しまともに生きることを願おう」
殺意しかない冷徹な物言いに、男たちの顔が真っ青になる。
カヤちゃんも言葉を失って固まってしまっているが。
「ちょ、ちょいちょいそこまでそこまで」
最中、俺が間に入って言葉を発した。
「む? 黒髪の御仁、何故止める? こやつらは、貴殿らを殺そうとしたのですぞ?」
「まあ、そうだろうけどな。十分罰は受けたと思うし、そこまででいいんじゃねぇか」
「! ……こやつらは賊。人を捨てた獣ですぞ。生きていても何の価値もござらん」
ずいぶん固い喋り方をする子だな。似合ってるけど。
「何の価値もないかは分からんけど、もう抵抗する気もなさそうだしな。アンタらもまだやる気か? 次は死ぬと思うけど」
「「「ひぃぃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」
脅してやると武器を捨て去り逃げ帰っていく。全員が片腕を失っているという痛烈な状態だが、自業自得だし死ぬよりはマシだろう。
「……甘いですな。彼らがまた悪さをしないとは限りませんぞ?」
「あ、どうしても殺すんなら追いかけて殺ってくれ」
「は? え、えっと……はい? 殺してはいけないのでは?」
「ああ、ここではできるだけってことで」
「???」
心底意味が分からないといった様子で首を傾げている少女。
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