第24話 意外な成長?
「――さあ、次の対戦はモンスター討伐者として名を上げているマックス選手と、風来の旅人――――シラキリ選手だぁぁっ!」
実況席が設けられてあり、そこに座ってマイクらしきものを持ちながら説明をする女性。
隣には解説役としてか、武闘大会の主催者である領主が座っている。
二人だけでなく、周囲の野次馬もまた試合を楽しみにしているようで、顔を上気させて……って、そんなことはどうだっていいんだよっ!
な、な、何でこうなったぁぁぁっ!?
どうして俺は舞台の上に立って、屈強な筋肉質の男と向き合っているんだ!
いや、そんなことは分かっている。
すべては――すべては、あそこで屈託のない笑顔で応援している獣耳を生やした少女のせいだ。
「ボータァ~、頑張れぇ~!」
大きく手を振りながら俺に声援を送っているという事実は喜ばしいものだろう。女子の応援があれば、男なら最大限の力を発揮できるだろうから。それは俺も例外ではない。
しかし、彼女のせいで俺はこんな危なっかしい舞台に立たないといけなくなったのだ。
「へへへ、おい兄ちゃん。そのなよっちぃ身体でまさか参加するとはなぁ。どうにも武人には見えねぇ」
いえいえ、こっちは全くその気はなかったんですが。
目の前に立つ三十代後半ほどのマッスル野郎が不敵な笑みを浮かべて声をかけてきたが、俺はそもそも誰かと戦いたいなんて思わない性格なのに……。
それなのにポチは、自分がエントリーするだけなのは物足りないということで、勝手に俺の名前も受付の女性に知らせて登録したらしいのだ。そうすれば優勝と二位で三十万をゲットできてウハウハだということらしい。
そこは本人確認しとけやこらぁ!
だが名前を呼ばれた時に、咄嗟に返事をしてしまったのが運の尽きだったらしい。
あれよあれよと流されて、こうして舞台の上に立ってしまっている。
「さあ、楽しもうぜ兄ちゃん」
嫌じゃぁぁぁぁぁっ! 戦いに楽しさを覚えるなんて性癖は持ち合わせていねぇんだよぉ!
そういうのはポチだけで十分なのにぃぃぃぃっ!
「頑張ってくださぁい、ボータさぁぁん!」
ああカヤちゃん、できれば応援じゃなくて止めてほしかった……。
「勝って決勝でボクと真剣勝負だよぉ!」
喧しいわ! この
「それではそろそろ開始の銅鑼を鳴らしてください!」
ああもう始まっちゃうぅぅぅっ!?
目の前に立つマッスル野郎から、ボキボキと拳を鳴らしてやる気満々さを感じさせてくる。
くっそぉ、こうなったらわざと負けるしか――。
この試合の敗北条件は気絶したりして戦闘不能に陥るか、舞台から落ちてしまうか、本人が敗けを認めるかである。
故に俺は怪我しないように後者の方を選択して手を上げて降参しようかと思った。だってこんな公衆の面前で《外道魔術》なんて使いたくないし、そもそも勝ち上がりたいと強く思っているわけでもない。
「――では、始め!」
実況の声とともに銅鑼が打ち鳴らされる。
同時にマッスル野郎がこっちに向かって走ってきた。俺は手を上げようとする――が。
…………あれ?
その動きは非常にのっそりとしており、よく漫画のキャラに「そんな動きじゃ欠伸が出てしまうぜ」とか言う奴が出てくるが、その言葉に値するのではと思うほど鈍く感じた。
マッスル野郎が数秒かけて俺の接近すると、その丸太のような太い腕で殴り掛かってくる。
――やっぱり遅い?
俺の目は確実に相手の拳を捉えており、十分な思考時間をかけて回避することに成功。
そのまま相手の背後へと逃げる。
「! おお、避けられちまったぜ。今のをかわすとはやるじゃねぇか」
「えっと……ど、どうも」
「遠慮はいらねぇようだな。なら全力で行くぜ坊主!」
「いやいや、できればソフトでお願いしたく――」
「うらぁぁぁぁぁぁぁっ!」
聞く耳持たないといった感じで再度詰め寄ってくるが、やはり――遅い。
これが全力……?
ついそんなことを思ってしまう。
野次馬の中にも、見た目から明らかに俺があっさりと敗北するだろうと思っていたのか、唖然としたり感心したりする者が出てきている。
そうか! 俺ってこの一カ月、ポチや桃爺としか修行してなかったしな。
考えてみれば超絶存在の二人と曲がりなりにも修行をして生き残れているのだから、多少腕に覚えがある程度の人間の動きが避けられないわけがないのだ。
何せポチの攻撃ですら回避できているのだから。
昔から動体視力や反射神経は良かったが、修行のお蔭かさらに良くなっているような気がする。
「ぜぇぜぇぜぇ……ちっ、よく避けやがるぜ。こうなったら最大最高の全力で行くぜ!」
似たようなことをさっき言ってたような気が……。
マッスル野郎が咆哮を上げながら突進してくる。俺はそのまま舞台のギリギリまで移動して、寸前で突撃をかわしてやった。
マッスル野郎はそのまま舞台から外へと出てしまい……。
「――勝負ありでぇぇすっ!」
……勝ってしまった。しかもあっさりと。
自分でも予想だにしない結果だっただけに呆けてしまう。
「えっと……」
「―――おい、兄ちゃん」
「え、あ……!」
舞台の下から声をかけてくるマッスル野郎に、どう声を返していいかちょっと戸惑った。
「敗けたぜ! まさか手も触れずに倒されちまうとはな」
「は、はぁ」
というよりは自滅を誘った結果だったんだけどな……。
「武人には見えねぇって言ったことは取り消すぜ。お前さんは立派な武人だ」
いや違うんですけど。武なんか志している人じゃないんですけど。
「兄ちゃんが優勝することを心から祈ってるぜ! じゃあな! また戦おうぜ!」
顔はゴツくて暑苦しいのに、何て爽やかな去り際なんだ……。ちょっとカッコ良いって思っちまった。
あ、それと二度と戦いたくはありません。
俺が舞台から降りてカヤちゃんたちのもとへ向かうと、彼女たちは嬉しそうに笑って迎えてくれた。
「凄い凄い! ボータさん勝ちましたよ! あんな強そうな人だったのに!」
「ええー、あんなの見せかけだよ! ボクはボータが勝つって分かってたよ」
「あ、えっと……二人ともありがと。応援してくれて嬉しかった。あ、でもその前に……」
「いっだだだだだだっ!?」
俺はポチの両耳をぐい~っと外に向けて引っ張ってやる。
「まったくこの子は、何勝手なことをしてくれちゃってるのかな~?」
「うぅ~痛いよぉ、ごめんってばぁ~」
俺は耳から手を放してやり、ジッとポチを睨みつけてやる。
彼女は耳を押さえながら涙目でカヤちゃんの背後に隠れた。カヤちゃんもポチの勝手さに苦笑を浮かべているだけ。
「はぁ、まあ参加しちまったもんはしょうがねぇしな」
「へ? 許してくれるの、ボータ?」
「次やったらお尻ペンペンだしな」
「あぅ……はぁい、気を付けまぁす」
ただ今回のことで、自分が他の人間よりも大分と動けることを知れたのは良い情報だった。
今まで比べる相手が少なかったし、人外じみた力を持つ者しかいなかったので分からなかったが、俺は少なくとも回避能力に関しては自慢できるくらいのものを持っているらしい。
……まあ、特別マッスル野郎が遅過ぎたのかもしれないが。
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