第22話 あれでわたしを狙って
「……なあ、ほら、はよあれ取ってえな……」そう言いながら、怜子はゆっくりと腰を回す。「……なあ、頼むし。お願いやから」
「おっ……」
急に怜子が締め付けてきたので、出角は一瞬気が遠くなった。
「……んっ……早よ……あれで……狙って……」
「わ、わ……わかった……」
ベッドサイドのホルスターに手を伸ばす……一体、俺は何をしてるんだ?
出角は自分のやっていることがさっぱりわからなかった。
ホルスターから不恰好なほど馬鹿でかい銃身を抜き出すが……やはりそれをいきなり怜子の顔に向けるのは気が引けた。
これまで一度もこのブラスターを人間に向けたことはない。
世界中のどのバウンティ・ハンターのブラスターよりも、たくさんのアンドロイドを始末してきた銃だった。
相手がアンドロイドとなれば……つまり、相手がフォークト・ガンプフ検査でアンドロイドと診断されれば、の話だが……出角はいつもほとんど反射的にこのブラスターを抜き、逡巡なく引き金を引くことができた。
ほんの数日前、あの女……酒井の頭を吹っ飛ばしたように。
「……ああ、すごい。大きい……」怜子がうっとりと出角の手の中のブラスターを見上げる。「……なあ、これまで、何人くらいそれで殺したん?」
「何人?……」出角ははっと我に返った。「……俺は誰も殺してないよ」
「バウンティ・ハンターなんやろ、おっちゃん」
「そうや。俺は人間は殺してない。アンドロイドを始末してるだけや」
「……んっ……」怜子がシーツの上で身をよじる。「……え、ええわあ……“始末”か……なんか……す、すごいええわ」
「…………」
一瞬、萎えそうになった。
この女は頭がいかれているのだろうか?
まあ、自分のような冴えない中年男を居酒屋で引っ掛けていきなり一緒にラブホテルに入るような女だから……まともなわけがないのだが。
しかし……萎えそうになった部分を、怜子がさらにきつく締める。
さらに、怜子は回していた腰をゆっくりと前後にゆすり始めた。
「……おっ……おっ……」
「……あっ……んっ……早よ……それで狙ってえな……早よう……」
片手でブラスターを持ち、ゆっくりと銃口を怜子の顔に向ける。
いつの間にか、微かに自分の手が震えていることに出角は気づいた。
しかし、震えているのが自分の手であるように感じることができない。
何故だろう? 出角は思った。
今、まさに陰茎を突っ込んでいる、この女のことを人間だと捉えているから?
だから、自分の手は震えているのだろうか?
……この女が人間だなんて、何で判る?……証拠でもあるのか?
……フォークト・ガンプフ検査に掛けたわけでもないのに?
骨髄液の遺伝子構造を分析したわけでもないのに?
ひょっとすると、この女だってアンドロイドなのかもしれない。
そして、酒井は人間だったのかも知れない。
見た目には、この女と酒井にどんな違いがある?
何故酒井の頭は躊躇なく吹っ飛ばせたのに、この女の顔には銃を向けることすらできないのか?
簡単な話じゃないか……この女をアンドロイドだと思い込めばいいのだ。
風呂の排水口ほどもある銃口をうっとりとした目で見上げながら、怜子がそろそろと銃身に指を伸ばす。
「冷たい………」
怜子はそう言いながら、銃身に指を這わせた。
見るだにいかがわしい指先の動きだ。
一瞬、出角は握っている銃から、怜子の指の感覚が体に伝わってくるような錯覚にとらわれる。
怜子は両手でブラスターの銃口を掴むと、大きく口を開けて、咥えた。
そして、ゆっくり、巧みに指を絡めながら、前後に扱きはじめた。
「…………」
やっぱりこの女はおかしい……もしこの女がアンドロイドであるとするのら、出角にとっては、これがはじめてのアンドロイドとの性交になる。
アンドロイドが男たちとのセックスの中でどのような反応を見せるのか?
これまで同僚のバウンティ・ハンターが、何人もの女アンドロイドを目の前で犯すのを見てきたが、そういった行為とこれとはまるで違うはずだ。
いや、自分がこの女をアンドロイドなんだと捉えることによって、それは等価になってしまうのだろうか?
しかし怜子の顔にブラスターを突きつけていると、すでに彼女の体の中にしっかりとくわえこまれている血と肉でできた部位はますます固く、張り詰めていった。
怜子のほうの変化はもっと露骨だった。
今や、怜子はその細い脚を出角の腰に巻きつけ、がっちりと固定していた。
密着した状態で、怜子の腰が縦に、横に、前後に、まったく先の動きの読めない複雑な運動を続ける。締め付けはますます強くなり、まるで全身の血液を陰茎に強引に集められているようだ……あふれ出した粘液は密着したふたりの腹のあたりまで、べっとりとぬめらせている。
内腿と内腿がこすれあうたびに、湿った音がはっきりと聞こえた。
怜子はひとしきりブラスターの銃身に指を絡ますと、小さな舌先をを伸ばせてその銃口のあたりを舐めた。
「味がする……」怜子がつぶやく「最近、誰か殺ったやろ?」
「誰も……殺してない。殺したんは、アンドロイドや」
「それって……いつ?」
怜子は銃口の中にまで舌を入れ、その内壁を舐めた。
「3日前……」
「男? 女?」
「女の……アンドロイドや」
怜子は大きな口を空けて、ふと短い銃身の半ばあたりまでを銜え込んだ。
「……ちょと……危ないぞ」
「……ええから……これ、あたしの口の中で出し入れして」
出角は安全装置を確認し、念のため引き金には指を掛けないようにしながら、ゆっくりと銃身を前後に動かした。
「……あ……ん……んぐ……」
怜子は目を閉じ、一心不乱に頭全体を動かしている。
銃口に対する入念な奉仕をやめようとしない。
出角の方になんらかの変化が訪れなかったわけではない。
怜子の体の中で、出角の分身はますます硬く、勢いを増していた。
怜子の淫ら過ぎる動きのせいだろうか?
こんな動きを見せつけられて、平常心でいろ、という方が無理な話だ。
しかし、ブラスターを握る出角の目には、怜子の姿が、あの頭を吹っ飛ばした女店……酒井に重なっていた。
あの会議室で目にした酒井の豊かな胸、栗田の薄汚いものを冷めた目で見上げていた酒井の眼差し……そして、あろうことかその姿は、妻の鳴海にも重なった。
夕べ、玄関前に押し付けて、激しく突きまくった鳴海の姿態。
成美は必死で廊下に自分の声が漏れるのを心配していた。
すると、あっという間に出角は限界寸前まで追い詰められてしまった。
「あ……あ……」
情けない声が、出角の口から漏れる。
「……い、いきそう?おっちゃん、いきそう?」と怜子。
「………あ、う、うん」
怜子の締め付けは、もはや殺人的だった。
というよりむしろ、そこから出角の体全体を吸い込んではしまはないかと思えるくらいの勢いだ。
奥から何かが、出角の先端を引っ張っているかような気がしないでもない。
「……あ、あたしも……あたしもいきそう………」
「ぐ、ぐぐぐ………」倒壊しそうなダムを、ガムテープで補強しているような空しい気分だった。「……あ、あかん」
「ほら……気持ちいいやろ……これから……す、すごいことしたげるからね」
そう言って怜子は下から手を伸ばすと……そっと出角の鼻先に触れた。
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