§4:面白さに辿りつくために――「UI」と「UX」の設計を行う

 前項で紹介しました拙作「不法就老」ですが、この作品は執筆の一番最初から、カクヨムで公開することを念頭に置いて書いています。


 そこで考えたことが、「UI」(User Interface……ボタンやサイト構成など、ユーザーとコンテンツを繋ぐ媒介となるものの設計)と「UX」(User Experience……ユーザーが得られる体験、満足、感情などの設計)の考え方です。



 UIとUXの概念についてご存じの方であれば、「小説でUIって?」と思うかもしれません。

 しかし、小説だからこそこれを考えるべきではないか、と個人的には考えます。



●小説におけるUI


 通常、UIとして考えられるのは、「サイトやゲーム画面上のどこにどんな情報が書かれていて、どこにボタンが配置されていて、どんな色で……」みたいな内容です。

 ボタンがボタンとしてわかりやすいデザインであったり、ユーザーがどんな情報を目にしてからボタンに辿りつくかを考えたり、といったことです。


 Webサイトやゲームの画面では物凄く重要で、これ一つで売上が全く違います。



 では、小説におけるUIとは?


 小説が提供するコンテンツは、「登場人物の感情」や「物語の中の出来事」です。

 読者はこれに辿りつくために、「文章を読む」という行動を行う必要があります。


 優れたUIの思想というのは、「ユーザーの労力を減らすこと」です。

 Webサイトであれば、「購入ボタンを探す」などの労力を払わずに、自然に次のページへのボタンをクリックするように作る、というようなことになります。



 小説においてのUIとは、「文章を読む」、そして「内容を咀嚼し、意味を考える」という労力が少なく、「ドラマの面白さを味わえる」ことが、UIとして優れていると言えます。


 ・情景描写を長々と書かない

 ・段落の間は行間を空けて読みやすく

 ・会話を多めに

 ・「ツンデレ」などの記号化されたキャラクター

 ・「異世界ファンタジーハーレムもの」などの「共有された」世界観やジャンル


 批判も多いこれらWeb小説・ライトノベルの書き方ですが、これらすべて「UI」として考えれば優れています。


 だからと言って、これを全部やるべきかと言うとそうではない。

 なぜなら、「UX」を考えなくてはいけないからです。



●小説はUXの塊である


 UX、または「ユーザー体験」とも言われます。

 ユーザーにどこでどんな体験をしてもらうかの設計です。


 「不法就老」で実際に考えたUX設計は以下のようなものです。


・第一話の冒頭でインパクトのあるキャラクターを印象付ける

・エピソードの区切りで事件を起こす

  ……次のエピソードへの興味を引っ張る

・主人公に世界観を説明させず、誰かの口で語らせたことを主人公が聞く

  ……読者に主人公と同じ感情を持ってもらう

・ライトなやり取りとハードなシーンのギャップを作る


 小説を実際に投稿したりする方ならわかると思いますが、小説を書く時の手法として語られる技術でもあります。



 さて、そうして考えた場合に、例えばUXとして人間の複雑な内面の葛藤を描くのであれば、上記で挙げた「ライトノベルのUI」はユーザー体験を阻害することになるかもしれません。

 これが、「UIが優れていればいいかと言うとそうではない」と言った理由です。


 小説と言うのは、言わば「追体験」ですから、勢い通販サイトなどよりもUXの比重は高くなります。



 「読者が読みやすくする工夫」は極力行った方が、離脱率を下げる結果には繋がります。

 しかし同時に、「どんな体験をさせるか」によって読者の興味を引っ張ることで、読者がページをめくる手を止めさせないことが肝要であると考えられます。

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