33話 幕切れは、あまりにも

 白炎を避けたクラールは体を異形に任せた。

 二人が知る月の使者と変わらない姿にクラールは侵食された。

 フロイが竜を操る。パルチェはそんな――


 自分が一番よく知っていて、自分が一番よく知らないフロイを前に何もできなかった。


 パルチェは復讐というものを、今になってどうしようもなく理解した。


(こんな悲しい……こんなつらい……こんなに――)


 フロイは機械仕掛けの竜を操り、月の使者に迫る。

 しかし、他の月の使者と同じで、クラールだったものはどうしようもなく早い。

 いつの間にか二人の頭上に現れると、歪な手でフロイを掴んだ。


(フロイッ!)


 パルチェは声にならない声を上げて、フロイを連れ去ろうとする月の使者に鉄線ワイヤーを打ち放つ。

 それを軽々と避け、月の使者はフロイを連れて月へ向かおうとする。

 しかし、フロイにとってパルチェが作った時間はあまりにも長いものだった。

 フロイが一瞬の隙をつき、月の使者に鉄線を打ち放つ。

 近距離で放たれたそれは月の使者の脇腹にしっかりと突き刺さった。

 月の使者はそれを抜き取ろうと、フロイを掴む手を緩めた。

 そこでフロイは予想外の行動に出た。


 鞍から暗い世界に身を投げた。


 あまりにも予想外の行動に月の使者は反応することができなかった。

 そのままフロイが落ちていくのを追うように、鉄線で引っ張られた月の使者は落ちていく。

 パルチェはほとんど反射的に手綱を操った。

 機械仕掛けの竜はパルチェの言葉なき言葉に従い、首を動かした。

 月の使者にかみつき、口にくわえたまま――


 白い炎。白、白、白、白白白白白――


 フロイが鉄線を使い再び鞍に戻ってくると、パルチェはフロイを抱きしめて、ただ泣いた。

 色々な感情が、精緻な歯車の組み合わせのように胸の内で回転して、なにがなんだがパルチェ自身よくわからなかった。

 暖かなパルチェの体温を、フロイはそっと抱きしめた。

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