30話 感情

 私は人によって作らた。

 機械仕掛けの人間。

 それのなりそこない。

 人間の頭脳を再現しようとして、頭が大きくなりすぎていまい、胴体に乗せることができなくなった。

 機械仕掛けの人頭。

 それが私の――ヘルツの愛称になった。

 私は、人々に支えられてこの青の世界の果てで、月の研究を手伝っていた。

 しかし、それはゆっくり終わっていた。

 人々が月に到着しはじめたころ、ここに不思議な少年が生まれた。

 透き通るような髪に、おそろしく白い肌。そして赤い瞳。

 そんな容姿のせいか、少年は迫害を受けた。

 少年は失意のうちに月に連れていかれてしまった。

 少年のいない青の世界の果てで、少年をいじめていた人は――

 まるで、少年なんてもともといなかったかのように生活をつづけた。

 残酷だった。

 しかし、少年は復讐にやってきた。

 月の使者となって。

 少年は青の世界の果てに暮らす人をすべて連れ去ってしまった。月に。

 私は、感情のままに叫びだしたかった。

 でも、無理だった。

 油が切れてしまった――油を足してくれる人もいない世界では、私はかすれた声しか出せなくなった。

 壊れてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る