28話 復讐の、火を
月を壊す。
フロイがそういうと、機械仕掛けの人頭――ヘルツは静かに頷いた。
「ソレハ、トテモイイ、カン……ガエデスネ」
「うん」
「ココニ、スンデイタヒ……トハ、ツキニイクホウホウ……」
「月に行く方法を?」
「ケンキュウ……シテイマシタ……」
それを聞いたフロイは期待のこもったまなざしをヘルツに向けた。
「ここにいた人達は月に行ったの?」
「……ハイ」
「本当? 本当なのね!」
「ハイ」
「その人たちがどうやって月に行ったか教えてくれる?」
「…………」
ヘルツは口を開く代わりに、飛び跳ねるように移動すると辺りに散らばる鎖を一本咥えて引いた。
すると、そこにフロイが見たこともない機械が現れた。
「何、これ?」
「エイ、シャキ……です」
「えいしゃき?」
フロイの疑問に答えるように、ヘルツは機械に取り付けられたスイッチを押した。すると、濁った黄色の明かりがともされた。
二つの凹凸のない歯車の一つ――そこに巻き付く黒く半透明な紙をなにも巻いていない歯車に口先で起用にひっかける。
「ゼンマイ、ヲ……マイテ、クダサイ」
「う、うん」
フロイは言われた通り、奇妙な機械に備え付けられているゼンマイを巻いた。
「これでいいの?」
「ハイ……」
ヘルツの声に合わせて手を離すと、何も巻いていない歯車が回転を始め、黒い紙を絡み取り始めた。
それに合わせて、明かりに照らされた黒い紙が金属の床に何かを写し始める。
「なにこれ! 絵が動いてる!」
「エイゾウ……ト、イウソウ……デス」
ヘルツの声は聞こえいないようで、フロイはそれを食い入るように見つめた。
そこに映し出された絵は青の世界の果てに住むが月に向かう様子を描き出していた。
背中に大きなタンクを背負い、顔をマスクで覆った人が機械仕掛けの鯱に乗り込む。
そして月へと飛び立っていく。
フロイは夢見る少女のように、それを食い入るように見つめた。
黒い紙がすべて何も巻かれていなかった歯車に巻き取られ終えると動く絵が終わると、ヘルツは呆然としているフロイに声をかけた。
「イカガ……デシタカ?」
「すごい……すごいよ! すごい! すごい!」
フロイはぴょんぴょん飛び跳ねながら興奮気味にまくしたてた。
「ねぇねぇ、どうしてこの人たちはマスクをして背中にタンクを背負ってるの?」
「ツキ……ニチカヅクト……イキガ、デキナクナル……カラデス」
「そうなの?」
「ハイ……ソレヲ、フセグタメニ……マスクヲシテ……セナカノ、ボンベ……カラクウキをオクリコミ……マス」
「へぇー知らなかった……」
このまま月に行ったら死んでしまうところだったと、フロイは背筋に冷たいものを感じた。
「それはここにあるの?」
「ハイ……アオイ、アカリガ……ツイテイルバショニ」
ヘルツが上を見る。それにならってフロイも視線を上に向けると、塔の先端部分に青い光が見えた。
「そっか……それじゃあ、それを付ければ月に行っても大丈夫なんだよね?」
「ハイ」
「ありがとヘルツ!」
とびっきりの笑顔をヘルツに見せると、フロイはパルチェにもこの話を早く教え、修理をしてから月に向かおうと急ぎ足でヘルツの元から去ろうとした。
すると、ヘルツがフロイを呼び止めた。
「なに?」
「ホントウに……ツキヲ……コワス、ノデスカ?」
「うん。そうだよ」
「ワタシハ……ツキヲ、コワシテハ、イケ……ナイトオモイマス」
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