27話 静かな、怒り
捲れた金属の中から出たフロイは。扉の仕掛け――鎖が伸びる方へ。
「ふふふーん……♪」
フロイは思わず鼻歌を歌ってしまった。
(ついに
ここまで来るのにとても長い時間がかかった。
月はまだ遠い。青の世界の果てにいても、手が届きそうにない。
しかし、終わりは見えた。
もう少し。あと、少し飛べばいいのだ。
月を壊して幸せになる。
月を壊せば幸せになれる。
フロイは疑いもなく、果てしなく透き通るような無垢さでそれを信じた。
(月を壊したら何しようかな? パルチェと色んな世界を旅するのもいいな~)
跳ねるように、弾むように、フロイは鎖をたどって、その先にある灯の方へ虫のように吸い寄せられていく。
そして、様々な鎖が複雑に入り組む場所にたどりついた。
「うわぁ……」
フロイは感嘆の声を上げた。
そこは塔の心臓とでも言うべき場所だった。
塔の様々な場所から鎖が集まり、歯車やピストンが複雑に組み合わさっている蒸気機関につながっている。
何十、何百もの蒸気機関は絶え間なく蒸気を噴き上げ、時々ピストンの音、歯車が軋む音が聞こえる。
おそらくここで青の世界の果ての全てをつかさどっているのだろう。圧倒的な光景に、フロイはしばらくその光景を見つめることしかできなかった。
「ダ……ダレデスカ?」
無機質な声がフロイに向けて発せられる。
声のした方を見ると、そこには巨大な人間の頭部が――機械仕掛けの頭部があった。
「あなたは……?」
「ワタシハ……
「えっと……ヘルツさん? あたしたちを招き入れてくれたのはあなたなの?」
「……ハイ」
「ありがとう。竜が傷ついてきたから助かったよ」
「イエイエ……」
「ヘルツさん、あなた以外に誰かいないの?」
「イマセ……ン」
「どこに行けば青の世界の果てに住む人に会えるかな?」
「アエ……マセン」
「どうして? 明かりもついてるし、どこかに人が住んでいるんでしょ?」
「……イイエ」
「…………どういうこと? 本当にここには誰もいないの?」
「ハイ……イマセン……ココ、ニスンデ、イタヒトは――」
ツキニツレテイカレマシタ。カルマニ。
ヘルツはそこだけははっきりと言い切った。
「えっ……」
フロイは絶句した。
「ミンナ……ツレテ、イ、カレマシタ……」
「そんな……それじゃ、ここにはヘルツ一人……?」
「ハイ」
フロイは次の言葉を見つけられなかった。
しばらくして、フロイは口を開いた。
怒りに震える声音で、静かに告げた。
「ねぇ、ヘルツ。あたし月を壊そうと思っているんだ」
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