六部 はて

26話 金属と、蒸気

 青の世界の果ては機械仕掛けの大鯨より巨大な金属の塊だった。

 月を穿つような尖塔、その下にとぐろを巻くように円周が一回り異なる輪が連なる。

 金属の塊は人が暮らしているのか、ところどころ明かりが見え、蒸気が吹き出していた。


「とりあえず降りる?」


「うん」


「でも、どこに降りればいいんだろうね?」


 青の世界の果てはなみうちぎわとは異なり平坦な場所があまり見受けられなかった。


「底……?」


「尖ってるほうと逆側のこと? でも、明かりもいっぱい見えるから人いそうだよ?」


「そう」


 いくら巨大な青の世界の果てとはいえ、人がいる場所に降りれば機械仕掛けの竜では大きな被害を与える可能性もある。


「どうしよっか……」


 二人はさらに青の世界の果てに近づき、周りをぐるぐると旋回する。

 何周目かで、底に近い金属の輪の一つが捲れるように開いた。そして、キラキラと輝く赤色の光を発した。


「あれは……」


「近づく」


 パルチェは手綱を操り、機械仕掛けの竜を捲れた部分に近づけた。

 そこは、機械仕掛けの竜も入ることができそうな空間だった。

 それを認めると、パルチェは竜を突入させた。

 金属でコーティングされた内部はガス灯が赤く光る以外味気のないものだった。

 二人は竜から降りる。


「誰も……いないのかな?」


「…………」


 フロイは辺りを見回す。しかし、人影はない。もし、金属の輪が人為的に開いたものなら近くに操作した人がいてもおかしくない。

 しかし、内部はがらんとしている。


「フロイ、見て」


 パルチェが捲れ上がった金属を指さす。


「歯車」


「あっ! そっか、あれでここを開けたんだ」


 入り口には精緻な歯車とチェーンが複雑に絡みあう機構があった。鎖は中を貫くように天井へと延びている。どうやらあれでここを開いたようだ。


「ということは、ここを開けた人は外にいるのかな?」


「多分」


「それじゃ探しに行こう!」


「待って」 


 早速ここから飛び出していこうとするフロイの袖をパルチェがつかむ。


「ボロボロ」


 パルチェが竜に視線を向ける。

 機械仕掛けの竜は、先ほどの大鯨との戦いでボロボロに傷ついていた。


「修理したい」


「うーん……それじゃ、とりあえず別れよっか? あたしは誰か探してくるね」


「うん」


 パルチェは工具を取るために竜の中へ、フロイは人を探すために外へ出た。

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