24話 機械仕掛けの、大鯨<下>

 機械仕掛けの大鯨の攻撃によって落とされた竜にまたがりながら、パルチェは意識が飛びそうになるのをこらえながら必死に手綱を操った。


「お願い! 飛んで!」


 呼吸すらできない落ちていく圧力の中、パルチェは必死に叫んだ。

 しかし、先の一撃のせいか機械仕掛けの竜は翼をはためかせなかった。


「くっ!」


 歯を食いしばって、必死に落下に抵抗する。

 回転する世界の中で、パルチェは大鯨が追撃を加えようと見た。


「飛んで! 飛んで! 飛んで! 飛んで! 飛べッー!!!」


 パルチェの叫びは、祈りは届かない。

 その間も、回転する世界で機械仕掛けの大鯨が確実に距離を詰めてきていることが分かった。


「終わり――」


「パルチェ!」


 空気を切り裂いて、フロイの声がパルチェに届いた。


「フロイ!?」


「今から行くね!」


 フロイは落ちていく竜の背中に姿を現すと鉄線ワイヤーを打ち放ち、パルチェのすぐ側までやってきた。

 その時、竜が大きく傾いた。


「あっ――」


「フロイ!」


 パルチェが伸ばした左手が、フロイの右手をしっかりと握りしめた。

 パルチェがそのままフロイを引っ張ると、フロイは自然といつもの位置に座ることになった。


「何してるの! 落ちる!」


「あたしが落ちる前に竜が落ちるよ! それより竜が起きないんでしょ?」


「うん」


「あたしに考えがあるの」


 そういうと、フロイは鉄線を機械仕掛けの竜の首に打ち込んだ。


 ――ギャァアアアアアアアア!


 フロイが打ち放った鉄線が効いたのか、機械仕掛けの竜が悲鳴をあげた。


「今ッ!」


「飛んで!」


 パルチェが手綱を操ると、機械仕掛けの竜は翼をはためかせ、元の姿勢をとり、目前まで迫っていた大鯨から距離をとった。


「今のうちに、逃げる」


「待ってパルチェ」


「待つ? 何を? 早くしないと――」


 フロイの投げかけた言葉に疑問を持つパルチェだったが、ふと視界に入った竜の顔を見て気付いた。

 二人が乗る竜は怒り狂っている。


「……できるの?」


 パルチェが問うと、竜は当然だと言わんばかりに荒く蒸気を吐いた。


「壊して」


 その一言が合図になった。

 竜は大きく息を吸い込むと――

 白い炎を吐き出した。

 あまりにも温度が高すぎるため、もはや白としか認識できないそれは大鯨の身をたやすく溶解させた。

 胸鰭から東部の半分までを失った機械仕掛けの大鯨は、溶けだした金属をまき散らしながら青の世界の深層に沈んだ。


「勝った……?」


 すべてが終わり、緊張が解けたのかパルチェがフロイに倒れこんだ。

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