22話 機械仕掛けの、大鯨<上>
パルチェにとって、
青の世界に果てがあることは知っていた。しかし、それが青の世界より上にあることは昨日まで知る由もなかった。
(私は、世界を何も知らない……)
一人だった。風の言葉を知っていること以外、空の民として生きていく知識も知恵もなかった。
だから、私がフロイを苦しめているかもしれない。パルチェはそう思った。
フロイの復讐に何も力を貸せない。そんな自分を恨めしく思った。
だから、フロイが苦しんでいるときは力を貸して、フロイが悲しんでいるときには先に進んで手を差し伸べる。
そのために、今は飛ぶ。空高く、どこまでも。
どれだけ飛んだだろう? ふと、機械仕掛けの竜が上に向かうのをやめた。
「どうしたの?」
竜に訊くと、口から荒く蒸気を吐きながら空の彼方を見つめていた。
青の世界にあるはずのない、雲がそこにはあった。
「雲……?」
しかし、それは雲ではなかった。
大量の蒸気だった。
ゆっくりと霧散していく蒸気の中からそれは現れた。
――ウォオオオオオオオオオン!
重低音がパルチェを体の中心から揺らした。
それは見たこともない機械仕掛けの生き物だった。
腹の底に二対の大きな歯車、それが大きな四つの翼を動かしている。
背中には三分の一ほど見える巨大な歯車。これが巨大な尾を上下させている。
頭部と思われる部分には大きな穴が開いておりそこから蒸気が漏れだしている。
そして、全身は見たこともない材質の金属が何重にも溶接されていた。
まだ遠くてはっきりしないが、それはこの機械仕掛けの竜より何倍も、何十倍も巨大だった。
機械仕掛けの大鯨。
パルチェは知らない。青の世界の番人。空の民の間で語り継がれる青の世界で最強と呼ばれる機械仕掛けの生き物。
「何……あれ……?」
つぶやいた瞬間、巨大なそれから煌めく何かが飛来した。
それは溶ける寸前まで加熱された金属片だった。
あまりに高速なそれにパルチェも機械仕掛けの竜も反応できなかった。
「っ!」
何十もの高熱の金属片が機械仕掛けの竜を襲った。
鋼鉄の鱗が焼けはがれ落ちる。
風よけのガラスにヒビが入る。
「に、逃げないと……」
ようやく我に帰ったパルチェは手綱を操り、機械仕掛けの竜を反転させる。
あれほど巨大な機械仕掛けの生き物なら当然足も遅い。そして、機械仕掛けの竜は青の世界ではトップクラスの速度を誇る。
追いつけるわけがない。
そう思っての行動だったが――
「嘘っ!」
機械仕掛けの大鯨は恐ろしい速度で機械仕掛けの竜に迫り――
巨大な
機械仕掛けの竜は苦し気に呻きながら、青の世界を背中から落ちた。
パルチェは振り落とされないように、
それが、それで、精一杯だった。
撃ち抜かれた蝶のように、落ちる。
止められない。
くるくると落ちる。
青の世界が回転した。
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