18話 世界の、仕組み

 透明な少年は、しばらく二人をじっと見つめたあとようやく口を開いた。


「お前達は……?」


 赤が青を撃ち抜く。

 二人はようやく我に返った。


「あたしはフロイ。この子はパルチェ。あなたは?」


 フロイが緊張した声音で尋ねる。


「俺は……クラール」


 低くかすれた独特の声が綺麗な口から放たれた。


「クラール君? よろしくね」


 ぎこちなく微笑んだフロイに対し、クラールと名乗った少年は無表情でフロイを見つめるばかりだった。


「ここはどこだ?」


「ここは青の世界。あたしたちの機械仕掛けの竜の中だよ?」


「機械仕掛けの竜?」


「あなたはここの倉庫の中にいたんだけど……覚えていない?」


「知らない」


「そっか」


 会話が途切れてしまう。無表情で淡々と話すクラールにフロイは調子を崩され、パルチェは人見知りからかフロイの背中に隠れてしまっている。

 しばらく沈黙が続いた。硬直した状況を打ち砕いたのは、意外なことにパルチェだった。


「ごはん、食べる?」


「……あぁ」


 その一言で三人は台所に向かうことになった。



 普段パルチェが座っている場所に、見知らぬ少年が座っていることはフロイをなんとも言えない気持ちにした。

 そんな二人の様子を料理を作りながらパルチェは眺めていた。


(フロイに押しつけた……)


 図らずとも料理ができないフロイがクラールと共に料理の完成を待つことになったが、それはパルチェの本意ではなかった。


(なにかしてあげたいけど……)


 人見知りで、おしゃべりも上手ではないパルチェは何もできなかった。今できることは早く料理を作って、二人の間に靄になって漂う緊張を取り除くことだけだった。


「あ、あのっ!」


「……なんだ?」


「クラールはどこの人? 空の民? それとも雲の民? 地の民……じゃないよね?」


「俺は……空の果てから来た」


「空の……果て? 空の果てって青の世界の果て? 月に一番近い場所?」


「そうだな」


「わぁ! すごい! すごい! あたしたち月を目指しているんだ! よければ月に早く着く方法教えてくれない?」


 クラールが青の世界の果てから来たと知ると、フロイは興奮気味にクラールに詰め寄った。


「そんなの簡単だ。上に飛べ」


「うえ……? どうして上に飛ぶの?」


「そんなの当たり前だ。月は青の世界の上にある」


「月は、青の世界を月を目指してまっすぐ飛ばないと着かないんだよ?上に行ったら着かないよ?」


「まさか……お前月がある場所を知らないのか?」


「月がある場所? 青の世界の果てのその先でしょ?」


「……お前、世界の仕組みを理解してないだろ?」


「世界の仕組み?」


 わからないというように首を傾げたフロイに、クラールは溜息をついた。


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