17話 少年の、目覚め
時間はお昼を少し過ぎたくらいになってしまっていた。
二人は相談して今日は空を飛ばないことに決めた。日が沈むまでではどちらにせよ、大した距離は進めない。それなら、今日はゆっくりと休むことを決めた。
泣き腫らした顔を洗うついでに二人はお風呂に入ることにした。
それからご飯を作り、おなか一杯食べて、寝て、明日に備える。
少し変わった一日を過ごす。
「ふわぁ~……」
湯船に入ったフロイがそんな気の抜けた声を出す。
「…………」
パルチェは静かに、お湯に溶けそうになる感覚に身を任せた。
「そういえばさ、月にはいつになったら着くんだろうね」
「……いつか」
「そうだけどさ……ずっと、月を目指しているけど、全然たどり着かないでしょ?」
「……うん」
月は遠い。これは空の民にも、雲の民にも、地の民にも伝わることだった。
青の世界の果て、そのさらに先にあると言われている。
もう、長いこと月を目指しているが二人は一向に月にたどり着けないでいた。
「月は逃げない。私たちが追うだけ」
「そうだね。パルチェの言う通りだよ」
にこっと笑うフロイに、パルチェは不器用な笑みを返した。
二人はお風呂から出た。
この後はごはんを作り、食べ終えたら早々に寝るつもりだった。
しかし、そうはならなかった。
「えっ……」
「どうした……の?」
先にその存在に気が付いたパルチェ、その様子を不審に思ったフロイがパルチェが見つめる先を見ると――
「…………」
そこには透明な、比喩ではなく本当に透明な少年が立っていた。
透き通るような髪、雲より白い肌、現実から乖離したような恐ろしく整った容姿。
そして、燃えるように赤い瞳。
眠れる少年が目を覚ましたのだ。
その事実に気付くのに二人はえらく時間がかかった。
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