13話 空と、空の民

13話 空の世界と、空の民


 初老の女性は空の民らしく、ツナギ着て腰にポーチを巻いている。


「あなたたちはあの竜に住んでいるの?」


「はい! この子と二人で旅をしています!」


 フロイがそういうと、パルチェは人見知りが顔をのぞかせたようで、彼女の陰に隠れてしまう。


「そうなのね。よかったら少しお話ししない?」


「喜んで! ほら、パルチェ行こう!」


 パルチェが首肯する。その様子に笑みを浮かべて女性は機船の中へ二人を案内した。

 機船の中は機械仕掛けの竜と同じく、鋼鉄で作られていた。その中の一室、おそらく客間と思われる場所に三人は入る。そこには四人掛けの机と、蒸気調理器があった。


「掃除はしているけど普段使っていない部屋だから……汚かったらごめんなさいね」


「いえいえ! 全然そんなことないです!」


 実際、客間は塵ひとつなく綺麗で整えられていた。


「そうかしら? 飲み物、なにがいい? といっても紅茶とチョコレートしかないのだけど」


「あたしは紅茶でお願いします! パルチェは?」


「……チョコを……」


「わかったわ。少し待っていてね」


 女性は蒸気調理器に水を入れたヤカンを置き、湯を沸かし始める。その間にカップを三つ用意し、茶葉とチョコレートの準備をする。


「紅茶飲むなんて久しぶり! 楽しみだね!」


「うん」


 しばらくして、二人の前にカップがおかれた。


「紅茶のおフロイランさんはお砂糖は使う?」


「いえ、大丈夫です!」


「チョコのあなたは甘みが足りなかったら、これ入れてね」


 女性はパルチェに砂糖の入った小壺を渡す。


「ありがとう……ございます」


 パルチェは一口チョコに口をつける。甘くて、幸せな味がした。


「私の名前はエールよ。お二人ズィーは?」


「あたしはフロイです!」


「私はパルチェ」


「よろしくね。パルチェさん、フロイさん」


 エールは柔らかく微笑んだ。


「パルチェさんは空の民でフロイさんは――地の民かしら?」


「「はい」」


 二人の声が重なる。


「やっぱりわかるんだねー」


 のんびりとフロイが言うと、パルチェは鋭い目つきで彼女の胸部を睨んだ。私と対して変わらない年齢でそんなに発育がいいのは地の民だけだ。と言いたげだ。


「でも、私はどうして?」


「空の民は甘いものが好きでしょう?」


 空の民が食べるものは香辛料が効いた体を温めるものか、甘く血圧をあげるものが多い。青の世界で生き抜くための知恵だ。


「なるほど……」


 パルチェは納得したようにうなずいた。


「エールさんはずっとこの機船にいるんですか?」


「えぇ、そうよ」


「一人でですか?」


「……夫がいたけどね」


 瞳が少し愁いを帯びた。


「そうですか……もしかしてに?」


 フロイの言葉に何かが固まる音がした。


「そうよ。私の夫は月に連れていかれたわ」


 エールは無表情にそう告げた。

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