12話 出会った、空の民

 二人が見つめる先には四角い何かが時間を忘れたようにのんびり浮かんでいた。


「あれって――」


「機船」


 フロイの疑問にパルチェが答える。


「ということは、空の民がいるの?」


「うん」


「それじゃあいさつしにいこうよ!」


「…………」


「嫌だった?」


「いやじゃない……けど――」


 もう何年もフロイ以外とまともに話してないから心配。


「……ははっ、大丈夫だよ! 空の民と空の民は友達でしょ!」


「……そうだね」」


「行こう!」


「うん」


 パルチェは手綱を操った。

 機械仕掛けの竜は鋼鉄の羽ばたきで機船に近づいた。彼我の距離まで近づくと、機船に乗っている空の民が驚いて甲板に出てきた。


「おーい!」


 二人は機船の空の民に向かって手を振った。それに気づいた相手も手を振り返す。


「手、振ってくれたよ!」


「そう」


「向こうにいこうよ!」


「いいかどうかきくねる」


 そういうと、パルチェは腰のポーチから人差し指ほどの中が空洞の金属棒を三本取り出した。

 手綱を一時的にフロイに手渡し、それらをつなぎ合わせ、一本の笛を作り上げる。

 口を吹き口に近づけ――


 空の旋律を奏でる。


 透き通るほど冷たく、凍てつくようで、それでいて耳の中で温かくなるような――そんな音色が機船にいる空の民に届く。

 すると、それに呼応するように相手も笛を手に音色を奏でる。

 風の言葉。空の民の間で長年守り続けられてきた伝達方法コミュニケーションだ。暴風の中でも聴こえるこの不思議な音で意思疎通を図る独自言語。

 しばらく、互いに音色を奏で続けた。しばらくして、会話が終わったのかパルチェがフロイに話しかける。


「いいって」


「わーい! お話しできるね!」


「うん」


 パルチェが再び手綱を手に取り、機械仕掛けの竜を操る。限界まで、機船に近づくと柵に鉄線を打ち込む。

 そして、船に飛び移る。


「よっと!」


「…………」


 数瞬だけ、空を舞い、導かれるままに固い甲板に鋼のブーツを叩きつける。


「こんにちは!」


「こんにちは……」


「はい、こんにちは」


 二人を向かいいれたのは、初老の女性だった。

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