三部 つき

11話 青の世界、生きる

 豪風と青と光。

 それが青の世界のすべてだ。

 機械仕掛けの竜は今日も二人の少女を乗せ、変わらずに空を飛ぶ。

 鋼鉄の翼は風を捉え、揚力の推進力を生み出し前へ。

 廃液で鱗の一部を黒々と照らし、口から蒸気を吐く。


「暇だね」


「うん」


 何年も代り映えしない空の旅。美しい世界も慣れてしまえばただの景色。二人は時々どうしようもないほどの倦怠感に悩まされる。


「この青の世界には私たちしかしないのかな?」


「そんなことはない。他の空の民もいる」


「そうだよね……」


 地の民、雲の民は大地、なみうちぎわにそれぞれコミュニティを作り共同生活を行うが、空の民は基本的に家族単位以上での共同生活は行わない。パルチェとフロイのように機械仕掛けの空飛ぶ生き物と共に生活するか、機船に乗る。定住しない彼らは、年に数度自分たちと同じ空と民に出会う以外はほとんど顔を合わせる機会はない。


「ねぇ、やっぱり他の空の民と会いたい?」


「…………」


 パルチェは返事に悩んだ。

 フロイはもう滅多なことがなければ、同じ地の民に会うことはない。


(私だけ……会いたい……言えない……)


「……いい」


「えっ?」


「フロイがいればいい」


 ぽつりと零した言葉は、パルチェの想像以上にフロイを喜ばせた。


「本当?」


「うん」


「本当に本当?」


「……うん」


「本当に本当に本当に!」


「…………」


 フロイの過剰な反応に返事が面倒になったパルチェは口を一文字に結んだ。


「えー……つれないな……」


 フロイがそう言い、パルチェの肩に頬をこすりつける。


「やめて」


「いいじゃん、いいじゃん」


「よくない」


 煩わしさと共に、フロイを引きはがそうとするが、手綱が手放せない以上は力負けしてしまう。しばらくなすがままにされることに決めたパルチェは仕方なく透き通るほど青い前方を見つめた。


「あっ」


「どうかしたの?」


 パルチェが上げた声につられ、フロイが視線の先を見つめる。

 そこには、陽の光を受けて輝く何かがあった。

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