10話 記憶


 これはあたしの記憶。

 まだあたしが小さくて大地に住んでいたころの記憶。

 あたしにはおかあさんとおとうさんがいた。

 おかあさんは柔らかくてやさしくて、おとうさんはがっちりしていて少し怖かったけれどそれでもやさしかった。

 あたしはおかあさんとおとうさんに愛をたくさんもらった。返しきれないほどもらった。

 だから、いつか、いつかおとなになって、なんでもできるようになったら愛を返そうと思っていた。


 でも、がすべてを奪った。


 あたしだけが助かって、おかさんとおとうさんは月に連れていかれた。

 それだけじゃなかった。

 月はおとうさんとおかあさん以外にもたくさんの人を連れ去った。

 私よりも小さな子供から、腰のまがったおじいちゃんやおばあちゃんまで。

 

 そして、みんな帰ってこなかった。


 おかあさんもおとうさんもいない世界を見たくなかった。

 あたしは月に復讐つきをこわすことを決めた。

 おかあさんをおとうさんを――返してほしかった。

 憎かった。あの月が憎かった。


 あんなものは壊してしまえばいい。

 

 そう決めて、あたしは機船に乗って月を目指した。

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