9話 眠れない。眠る
青の世界を月を目指して飛ぶ。
機械仕掛けの竜は一定の速度で翼をはためかせる。
その背に乗る二人の少女は――ただ、前を見ている。
「ねぇ、あの子何日目だっけ?」
フロイが隣に座るパルチェに訊く。
「三日……」
「そっか……」
二人の会話はここで途切れる。
謎の少年が竜の胎内で発見されてからすでに三日が経った。
その間、少年はただ眠り続けているだけだった。
「人ってずっと眠っていても大丈夫なの? おなかすかない? トイレ行きたくならない?」
「わからない」
「生きているのはわかるけど、いつか死んじゃわないか怖いね」
「……うん」
フロイの言葉にパルチェは頷くことしかできない。
眠り続ける少年は――眠っていることと容姿以外には何もわからない。情報がない。
体調は心配だが、今はなにもできなかった。
「一回起こしてみよっか?」
フロイが空からパルチェに視線を移す。
「……それでもいい」
「乗り気じゃない?」
「起こしてみることに異議はない。ただ、あの子は起きない気がする」
「そうかな?」
パルチェは双眸に青を移し続けながら淡々と返事をした。
「それじゃ、日が暮れたら起こしてみない?」
「フロイがやるなら隣にいる」
「わかった」
会話が終わると、あとは月を目指してただ飛ぶだけとなった。
日が暮れて、二人は竜の胎内にもどる。
ご飯を食べ、お風呂に入りあとは寝るだけとなると二人は少年が眠る部屋に向かった。
「まだ寝てるね」
「…………」
少年は粗末なつくりのベッドで変わらず眠り続けていた。
「起こすね」
小さな声でフロイがパルチェに伝えると、ベッドに歩み寄り耳元で声をかける。
「もしもーし。朝だよ?」
返事はない。
「おーい! 起きないの? おいしいご飯もあるよー!」
さらに大きな声を出すが、少年は起きる気配がなかった。
「……だめだね」
フロイが笑って少年から離れる。
二人は静かに部屋から出た。
「どうして起きないのかな?」
「……さぁ」
「この世界を見たくないのかな?」
いつかのあたしみたいに。
フロイの何気ない一言がパルチェにグサッとカエシがついた矢じりのように刺さった。
亜麻色の髪の下の表情は――見たくなかった。
「それじゃ寝ようか? おやすみ」
「おやすみ」
二人はそれぞれの部屋に入った。
機械仕掛けの竜が心臓の音を刻む以外、音のない静かな夜が始まった。
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