8話 眠れる、少年

 少年は二人の少女より少し幼いくらいの容姿をしていた。

 真っ白な肌に、見たことがない透き通った色の髪。

 薄い胸が小さく上下していなければ精緻に作られた人形マリオネットとしか思えなかっただろう。


「……だれ? この子?」


「……知らない」


 フロイとパルチェは困惑した様子で顔を突き合わせた。


「眠っているだけ? 病気とかじゃないよね?」


「熱は……ない。顔色も……悪くないはず……」


 あまりに白い肌の色からは体調は悪くなさそうだった。ただ、熱はなく、あくまで静かに目を閉じているだけのように思えた。


「町の子がここに来ちゃったのかな?」


「それはない。竜は賢いから、いくら子供でもおなかに知らない人を私の許可なくいれない」


「そっか」


 機械仕掛けの竜の胎内はあまりにも弱い。

 体表は鋼鉄の鱗に覆われているが体内は歯車を一つ失えば、それだけで空を飛ぶことに大きな支障をきたす。


「それじゃこの子はもともとここにいたの?」


「そんなわけ――」


 否定したかった。

 でも、パルチェにはできなかった。

 今まで倉庫は何度も立ち入ってきた。隅々までおいてあるものは把握している。間違えて少年の箱を運び入れることはパルチェにしてもフロイにしてもありえない。

 他の可能性はない。それ以外の答えはない。


「どうするの?」


 不安そうな表情でフロイがパルチェをのぞき込む。


「……連れて行こう」


「……いいの?」


「うん」


「そっか」


 フロイは少し影のある笑みを見せた。



 二人は少年を箱から出して、機械仕掛けの竜の胎内で開いている部屋に寝かした。

 何も家具がない部屋。そこに箱を土台に麻布をかけたベッドを作り少年を寝かせた。

 そして、二人は再び外に出て鞍に座る。


「行こう。空に」


「うんっ!」


 手綱を引き、機械仕掛けの竜は二人の少女と――一人の少年を乗せなみうちぎわを蹴った。

 雲を裂き、白の世界を飛ぶ。

 その先にある青に向かって。

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