二部 くも
6話 白の世界、青と離れ
今日もハッチを開ければ落ちてきそうなほどに青い空が広がる。
そんな世界に二人は顔をのぞかせる。
「今日もいい天気だね」
「うん」
フロイの言葉にパルチェはそっけなく返して、翼の付け根から手綱に向かう。今日は幾分か風も穏やかな気がする。
そんな世界でふたりぼっち。だいぶ昔からのこと。二人は二人でいることに疑問を持たなくなっている。
「今日は雲の民のところまで」
「補給だね! 了解!」
フロイが私の出番とばかりに両手で握りこぶしを作る。
食料や日用品、竜の餌は空を飛び続けていれば減るばかりだ。そして、空ではそれらの補給ができない。水は雲に飛び込み
「それじゃ、今日も行こう」
フロイが鞍の右側に座り、パルチェを呼ぶように左側のスペースをぽんぽんと叩く。
「ん」
手綱を握る。そして、機械仕掛けの竜に下降を命じる。
響き渡る咆哮とともに、機械仕掛けの竜は下に下に引っ張られた。
空から雲へ。
雲の世界には多くの人々が住んでいる。空の世界から降りてくればどこかに人里がある。
「おっ! 裂け目だよ!」
「乗り出さないで」
鞍から腰を浮かし、下方に見えてきた雲を見ようとしたフロイをパルチェが注意する。
ガラスの風よけの先には、青と境界線を作る白があった。
世界の
もこもこで、やわらかそうで、食べたらおいしそうで、そんな雲が広がる。
「入る」
「うんっ!」
雲に入る《しろにおぼれる》
視界は青を忘れて、白を覚えた。
「水集めの鱗開いて」
パルチェがささやくと機械仕掛けの竜は翼よりしたの鱗をすべて逆立てた。
すると、鋼鉄の鱗の下から産毛のような細かい鱗が現れた。それは目に見えない水の粒をつかみ、根元の毛細血管よりも細い管におちていき、ろ過器をたどって給水塔に落ちる。
これが、二人が生きていくための水になる。給水塔がいっぱいになるくらい水をためれば、毎日浴槽にたっぷりのお湯を張っても一週間は持つ。
「光を探して」
パルチェがもう一つ機械仕掛けの竜に指示をする。
雲の民は薄暗い雲の世界で生活しているため、常に明かりを照らしている。それを頼りに雲の民を、補給ができる場所を探す。
しばらく無言の旅が続く。雲の中にいるせいで、パルチェのツナギは――フロイの白い服は――湿り気を帯びていく。
パルチェの短い黒髪は濡れて黒曜鳥の羽の色に――フロイの亜麻色の髪は大空鷹の尾羽のように――輝く。
どれだけ白の世界に
「ひかり」
パルチェがりんと鈴の音の声を出すと、機械仕掛けの竜は光に向かって鋼鉄の翼をはためかせた。
光が近づくのに比例して竜の速度は落ちる。
そして、雲の民の町へたどり着く。
大きさは――目測でこの竜の百倍ほどだろう――パルチェはそれを見て安心した。
この機械仕掛けの竜はとても大きい。小さな雲の民の町ならば着地しただけで大地まで落としてしまう。
機械仕掛けの竜は草木に覆われた丘の上に降り立つ。
すると、驚いた町の人々が機械仕掛けの竜に駆け寄ってきた。
二人は鱗に鉄線を括り付けると慣れた様子で丘に降下しいた。
「すみません! 私たちに食料と日用品を売ってください!」
フロイが笑顔で声を張り上げると、雲の民はにこやかに笑い二人を呼び寄せた。
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