5話 ゆめ

「じゃあね」


 ようやく歩けるようになったころ、なみうちぎわで捨てられた。

 その声は果たして男のものだったか、女のものだったか――今も思い出せない。

 悲しくて、悔しくて、泣いている少女。

 そんな少女の前に、空から黒い雨が落ちてきた。


 顔を上げるとそこには巨大な竜がいた。


 竜は空の民に伝えられていたそれではなく、全身を覆う鋼鉄の鱗を一部黒い液体でぬらめかせながら、口から蒸気を吐いていた。

 機械仕掛けの竜。

 そんあ言葉が幼い少女の頭の中に浮かんだ。

 竜は首を下げ、少女を誘う。


「のるの?」


 少女の言葉に答えるように、口から蒸気が漏れた。


「うん」


 少女は竜に乗った。鉄でできているはずのそれは――しかし、柔らかな温度を持っていた。


(あったかい……)


 竜を抱きしめて、少女はやすらかに眠った。

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