第6話 博士とンネイセ青年
王子さまとギャラクシーがまだ何十万キロも遠くにいたとき、一台のトラックが“イナモトコタイキモトコタミ”のど真ん中にある山の
目指すのはいいのですがトラックはと見れば、あまりにもポンコツで屋根はボコッとへこみ、へこんだ屋根には星の形をしたタクシーのあんどんのような看板がついていたのですが、これがへこみに合わせて傾いたまま乗っていたのです。
「博士・・・、博士。これは、大発見ですよ!」
「うん、うん。ンネイセ君、よくぞ知らせてくれた。これは、大、大、大発見だ!」
オンボロと呼ぶのがふさわしいトラックには、ンネイセ君と呼ばれていた青年が運転席に座ってハンドルを握り、助手席には博士と呼ばれた小柄な初老の男性が座っていました。
ンネイセ青年は異常な興奮状態にあるのかハンドルを握ったまま目をぎらつかせると、さっきまで風呂に入っていたかのように顔を真っ赤にして、そのうえ泡を吹きながらしゃべっていました。
博士は博士で、助手席で地図をのようなものを膝に広げたまま、目を皿のようにして穴のあくほどにらめっこしていましたが、
「やはり・・・、やはり、そうだ! この軌道上に、今まで流星群があらわれたことはない。ンネイセ君! これは大、大、大発見だよ。」
と言っていました。それを聞いたンネイセ青年は涙を流しながら、
「やりましたね、博士・・・。苦節十年、うっ、うう、僕は博士についてきてよかったです・・・。」
そして二人の喜びようといったら、大変なものです。頭の薄くなった博士は残り少ない髪が抜ける危険を冒して頭をかきむしると続けて
「だが、待てよ・・・。もし誰かが、われわれより早く見つけていたら・・・?」
まだ興奮状態が続いている博士でしたが、頭のいい人は猜疑心も強いらしくて誰かに手柄を横取りされるのではと、早くも心配をしていました。
そんな博士の心配を聞くと、ンネイセ青年は、
「博士、そんな事はないですよ。私たちより早く見つけるとしたら、ハッピブル天文台しかありません。そのハッピブル天文台が、いまだに何も発表してないのですから、大丈夫ですよ。」
「そうだな・・・。ンネイセ君、確かに君のいうとおりだ。ハッピブルは、何も発表していない?!」
言いながら博士は腕を組みなおして、何か自分に言い聞かせていました。
「ンネイセ君、私たちは・・・、有名人だ。一躍、有名人になるのだ!」
と言うなり助手席で小躍りしだします。そして小柄な体で飛び上がると、何と空中で2回転半ひねりも入れていました。
ハンドルを握っていたンネイセ青年も博士につられたのか、緊張と喜びでべとべとになっていた手を離すと、いっしょに踊り出します。車の中は博士の着ていたチョッキやンネイセ青年のセーターが新体操のリボンよろしく華麗に舞っていました。
しかし?! 黒煙を吐いて急な山道をあえぎながら登っていたオンボロトラックは、ンネイセ青年が踊りに夢中になりハンドルから手を離した次の瞬間くるりと百八十度向きを変え、ものすごい勢いで来た道を駆け下って行きます。
「びぇー!」
断末魔の悲鳴とは、この事なのでしょう。猛烈な勢いで下っていくものですから二人は変な格好で背にしていた窓に押しつけられると、トラックはそのまま町の壁をぶち破り遠く南に広がる草原の彼方まで落ちていきました。
町の壁? 中世の町なら分かりますが、ロケットが飛ぶ時代に何か変! そうなのです、町に比べて天文台があまりにも立派すぎたので、周囲二十キロ以内に住民は住んではいけないことになっていたのです。
これでは分かりにくいので、もう少し説明しましょう。じつは“イナモトコタイキモトコタミ”という町の中心には高い山があって、裾と山の境には人の背丈よりもはるかに高い壁がぐるりと巡らされていました。
壁が築かれるまでは見晴らしが非常によいものですから、たくさんの人びとが山の中腹に家を建てると生活を
また、山と裾をつなぐ場所に民家を三十軒以上集めたような大きな町役場があるのですが、壁ができてからは関所のような役目も兼ねて山に入る車や人を制限していました。
なぜ、そんなことをするのか? それは、いかに立派な天文台を造っても、周辺で車のヘッドライトや家の灯り、商店の赤や青のネオンがキラキラとしていては、いくら目がよい博士がいたとしても星かネオンか判断することができなかったからです。
壁が造られる以前には天文台に五十人の博士、それはそれは立派な天文台でしたから五十人博士がいても不思議はなかったのですが、五十人の博士が順番に観測していました。ただ家の灯りやネオンが灯っている時に順番が来ると、星を見ることができません。それならばということで消えた時を見計らって見ようとすると、たまたま遅くまで営業している店があると、見る事が出来ないどころかすぐに朝が来ていたのです。
そんなこんなで頭にきた何人かの博士は頭皮をかきむしりすぎて円形脱毛症になり、ある博士などはひどい神経症で下痢が止まらなくなっていたのです。
そうしたある晩のこと、夜があまりにも明るいので子供が眠らない、
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