第5話 王子様、夢に出会う?

 二人の頭上に、そして足下にも、巨大な銀河がまばゆいばかりの光を放ち音を立てて渦を巻いていました。すると銀河の一つから、王子さまの心に響いてくる何かがあったのです。

「あれっ、どこからだろう?」

 王子さまは銀河を眺めながら首をひねりますが、よく分からないようです。

「ねえねえ、ギャラクシー。何か、聞こえない?」

 言われたギャラクシーは、何がどうなのかさっぱり分からないといった顔をしています。

「王子、そんな禅問答のようなことを言われても・・・? いったい、どうしたんだい?」

 王子さまはあっちこっちと銀河を見ていますが、

「何かが聞こえるんだけど、どこか分からないんだ?!」

と言います。

「ううん、何か聞こえるのかね?」

 ギャラクシーも耳を澄ませますが、

「いいや、何も聞こえませんぞ。」

と言っていました。

「絶対に、聞こえるんだ。もう一度、耳を澄ませてよ・・・。」

 王子さまに頼まれてギャラクシーは仕方なく耳を澄ませていましたが、

「おお、王子! 本当だ、何か聞こえますぞ。」

「そうでしょう、どこかなあ?」

 一生懸命王子さまが探しているので、ギャラクシーもつられたように真剣に探していました。

「たぶん・・・、あの銀河からではないのかな?」

 確信が持てないギャラクシーは、ためらいながら一つの銀河を小さな手で指していました。ギャラクシーの手と視線を追うように王子さまも見ていましたが、

「うん、そうだね。何かが、聞こえる!」

 しかし、言ったはずのギャラクシーですが確信が持てないようで、

「わしには、聞こえているような聞こえていないような・・・。」

と言葉を続けていました。そんな迷いのあるギャラクシーのお尻を叩くかのように、

「じゃあ、あそこに行ってみようよ! 素敵な夢に出会えるかもしれない。」

 再びギャラクシーの手を取ると、王子さまは走り出しました。ものすごいスピードで走り出したものですから、王子さまの声もあっという間に後ろに流れ去っていきます。

「王子、今何か言ったかの? よく聞こえんかったのじゃが。」

 目指すところがハッキリした王子さまは、握っていたギャラクシーの手をもう一度握り直すと、それこそ火の玉と見まごうばかりの輝きを放って闇に青白く長い尾を引きずると、右側に見えていた銀河の一画を目指し「ズンズン」という音が出ても不思議がないほどの勢いで進んでいきました。

 しばらく行くと、それはそれはにぎやかで大変美しい星の真上に来ていました。

 何がにぎやかだといえば、さまざまな声が星から溢れていたからです。“車は、すぐに止まれない”、“横断歩道は、右見て左見て渡りましょう”、“あー、あー、あー本日は晴天なり、テスト、テスト、テスト”、“インターネットはイチキュパー”等々、王子さまが星にいるときに聞いたような言葉が、これでもかと溢れています。王子さまは、思わず顔をしかめていました。

 星は王子さまの星とは比べようもないほど大きかったのですが、自分では光ることができないようです。近くの恒星から届いた光で輝いているようで、それなら影になった場所が真っ暗かというと王子さまの知らない別の光が灯っていたのです。

 王子さまとギャラクシーは取りあえず影の所は避けて、美しく輝いているところに来ていました。王子さまの足下には、色とりどりの屋根が見えます。大きな家もあれば小さな家もあって、高い山の上には輝くドーム状の建物もありました。そして、あちらこちらに蜘蛛の糸みたいに張りめぐらされた道には、車が驚くほどたくさん走っていたのです。

「何、何・・・。何と、この星の人間は飛べないのか?!」

 ギャラクシーは、驚いたように言います。そんなギャラクシーとは別に王子さまは耳を澄ませていましたが、

「ギャラクシー、この星か下の町か分からないけど、名前は『イナモトコタイキモトコタミ』と言うらしいよ。」

と言っていました。ギャラクシーは興味がないという顔ですが、せっかく王子さまが耳を澄ませて聞いてくれたのですから、

「イナモトコタイキモトコタミ・・・。」

と、暗記でもするかのようにつぶやきます。

 みなさんは、「イナモトコタイキモトコタミ」というすっごく長い名前の町を知っていますか? どなたもご存じない! 当然です、地図にも載っていない小さな町だったからです。

 でも、小さな町は王子さまの星より何十倍も大きくて、「ハッブル天文台」とまではいきませんが知ってる人は知っている、それなりに立派な天文台があったのです。


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