第4話 夢に向かって
突然のことに、ギャラクシーは目をパチクリさせているばかりでした。
しかし、王子さまは驚いた様子もなく、
「ビックリしたな、もぉう!」
と言って、誰にというわけでもなく照れ笑いをすると、今まで片手で握っていた桜の枝を、今度は両手で握り直して鉄棒でもしているかのように体を揺すりだします。
そして体を揺すりながら、チカチカと瞬くオレンジ色や青い色の星を、またバラの形をして何処にそんな色があったのかと思うほどピンクが鮮やかな星雲がクラゲのようにフワフワと動くのを、しばらく見ていました。
星を見ながらも、年を取ってちょっと気が弱くなったのか王子さまの星が動いたことに驚いているギャラクシーに、
「ねえ、ギャラクシー・・・。ギャラクシーは、夢を見たことがある?」
と尋ねていました。
ギャラクシーに尋ねた王子さまですが、まだ星から目を離しません。王子さまの瞳に映っていたのは、少し離れたところにある兄弟星でした。兄弟星は、コクリコクリと頭を振りながらお互いの周りを回っています。どちらが兄で、どちらが弟なのか、よく見ても分かりません。そんな兄弟星から目を離さずに頭上に留まっているギャラクシーに、
「ねえ、見たことある?」
と、もう一度尋ねていました。言われたギャラクシーは考え込むと、
「ゆめ?! 夢ねえ・・・?」
と、あごに手を当て顔を右に左に傾けると、
「王子に、そんなこと尋ねられるとは夢にも思わんかったよ?! ウ~ン、夢か。・・・夢ねえ。」
と、絞り出すように言っていました。体全体が顔のようなギャラクシーは、大きな顔を深刻そうに歪めているので、誰が見ても返事に困っているのが一目で分かります。
そんなギャラクシーに、本当だったら王子さまは枝から下りて話を聞くのが礼儀なのでしょうが、いま下りると小さな星から落っこちてしまいます。そのため逆立ちをしたまま、といっても星がひっくり返っていたのでなにもないところに立って万歳した格好でしたが、ギャラクシーを助けるように、
「じゃあ、僕といっしょに行こうよ! どこかで素敵な夢と出会えるかもしれない・・・、そうすれば痛いのなんかきっと治るさ。」
と言っていました。
「どこかって、何処だい?」
長い旅の経験から、ギャラクシーは王子さまの言葉に今ひとつ説得力を感じません。言われた王子さまはあっけらかんとして、
「それは、僕にも分からないよ。でも、行ってみなくちゃ絶対に分からないと思う。ねえ、行ってみようよ!」
と言いながら、ぶら下がっていた桜の枝から手を離していました。
どこが初めで、どこが終わりなのか分からない宇宙に、上もなければ下もありません。だから、桜の枝から手を離した王子さまは星から落っこちたのか、昇っていったのか誰も答えることができなかったのです。
しかし、王子さまは枝を離す時に振りをつけていたものですから、小さな星はぐるりと半回転すると前の状態に戻っていました。すると、王子さまは「ほっ」と安堵のため息をつきます。これで、少しの間は桜の木の文句を聞かずにすんだからです。
王子さまは宙に浮いた状態で、
「さあ、行こうよ!」
と、ギャラクシーの疲れのせいか年のせいなのか・・・、ガサガサになった小さな手を素早く握っていました。そして、もう一度、
「さあ、いっしょに行こう!」
と言っていました。しかし、ギャラクシーは
「王子。行くのはいいが、どこに行くんだい?」
と困ったように言います。
「僕を、信じて。」
「王子は、私の友達だ! だから、いっしょに行くのは嫌じゃないが、いったい何処にだ?!」
王子は気にもしないで
「行ってみなくちゃあ分かんないよ、とにかく行ってみようよ!」
問答無用で王子さまは、ギャラクシーの手をグイグイ引っ張ると走り出していました。
走り出すとすぐに、王子さまの小さな星は遠く豆粒のようになっていました。二人は、荒々しく炎を吐き出している星や氷に
グングンスピードを上げた王子さまとギャラクシーは、測れないほどの距離を走っていました。どれくらい走ったことでしょうか、王子さまの心に何かが映っていました。
「ねえねえ、ギャラクシー。ちょっと、待って?!」
王子さまは自分が引っ張っていたのに、まるでギャラクシーが引っ張っていたかのように言います。ギャラクシーは苦笑いをすると、
「どうしたんだい・・・、王子?」
と聞き返しました。
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