第3話 ギャラクシーの愚痴
王子さまはギャラクシーの思いつきには返答せず「な~んだ?! ギャラクシーも年だから目が悪くなったのかしら・・・」と失礼なことを口走りそうになりますが、そこはうつむくと口の中でモゴモゴとやっていました。
星の上に留まっていたギャラクシーですが、王子さまのモゴモゴが聞こえないのか、
「うん、王子? 今、何か言ったかの・・・。わしが言ったことが、そんなに面白かったのか?!」
と、小さくて細く長い手をデコボコ顔についたプチトマトのような耳に当てると言っていました。
自分で思いついた“化ける練習”がよほど気に入ったみたいで、王子さまが笑ってくれるのを期待しているようでした。しかし、期待に反して“化ける練習”は王子さまから笑いを取ることはなかったのです。反対に、
「ううん、何も・・・。」
と、顔を上げた王子さまは飲み込んだ言葉が口から出てこないよう両ほほをピクピクと小刻みに震えさせていたのです。そのうえ、こらえたまま話題をそらします。
「ねえねえ、ギャラクシー。痛いって、何が痛いのかな?」
聞かれたギャラクシーは「木に化ける練習」のことをもう忘れて、
「何が痛いかって?!」
王子さまに尋ねられてたのが久方ぶりで、この上もなくうれしそうです。デコボコ顔を何度もうなずくように縦に振ると、大きな目を急に細くし小さくて細く長い手をポンと打って、次にあごに当てると、
「うん、うん・・・、王子も知ってのとおり、わしは実に長い旅をしとる・・・。」
と、ここ最近の苦労話を始めていました。
ギャラクシーとは何年ぶりかの会話だったので、王子さまも本当は落ち着いて聞きたかったのですが、どうしても桜の木のことが頭から離れてくれず心ここにあらずでした。
というのも、王子さまは片方の足を丘の横に着くと、片方の足は水たまりをよけ
まあ、目を覚ましても・・・、それはそれで嫌ですが、いつものことなので王子さまだけなら我慢すればすむことでしたが、今日は気分屋のギャラクシーがいます。桜の木が文句を言おうものなら、ギャラクシーが何と言うか容易に想像がつくことでした。
でも、今のところその心配はないようです。なんとか、微妙なバランスを保ったまま王子さまは、
「そうだね。僕はいつでも・・・、ギャラクシーが大変なのはよく分かっているよ。」
と言いながら、枝を握ったまま葉っぱに鼻を近づけます。新緑のかすかに甘い香りが、葉っぱと銀色の幹から、今すぐにでも星空に向かって飛び立とうとしていました。
そんな王子さまを見ながら、
「わしは
ギャラクシーは言いながら、当然ですが王子さまの心配など知るはずもなく、大きなため息を一つついて見せていました。
みんなも風邪をひいて熱が出たときとか、病気で寝込んでしまったときに、お母さんが側にいれば、治っていなくても元気が出た経験があると思います。ギャラクシーも同じでした。いつも独りぼっちなので、王子さまに会えたこと、愚痴を聞いてもらっただけでよかったのです。
二人は・・・、ギャラクシーも王子さまもお母さんもお父さんもいないので、生まれたときから一人でした。だから、友達だけが心の支えだったのです。
「しかし、王子。まだまだ・・・!」
と言いながら目を輝かせると、
「王子には、負けませんぞ。ほれほれ、この通り・・・!」
と言って、小さくて細く長い手に力をみなぎらせポコリと力こぶをつくって見せていました。でも、その力こぶは王子さまと相撲を取った若いときに比べて半分もなく、肌もかさかさでした。また、尾っぽを取り出すと星空に向かって炎を噴射して見せますが、もう一つ輝きがたりません。
気の毒になった王子さまは返事をする代わりに、しばらくの間ギャラクシーをニコニコと見ていましたが、何かを必死で考えているようでした。しかし、考えに夢中になりすぎたのか、
その途端、小さな星はグラグラグラリとひっくり返りました。
「アッ?!」
王子さまは声を上げると、桜の木といっしょに枝を握ったまま逆立ちをしていたのです。
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