第2話 流れ星のギャラクシー
王子さまが留守の時、誰か桜の木の世話をしてくれる人がいればいいのですが、これといった人もいないので、とても面倒なことになっていました。
王子さまは肩を落とすと、また悲しそうにため息をつきます。そしてもう一度、気難しい顔をして星空を見上げていました。
その時です。天の川のすぐ下にある暗い空の彼方から、青白く長い尾を引いた流れ星が飛び出てきたのです。
「クルマは、すぐに止まれない!」
それは王子さまが五歳の時に、遠い空から聞こえてきた言葉でした。そのほかにもガッ、ガッ、ガア・・・、もしもし・・・、本日は晴天なり・・・、パソコン・バイクなどご不要品は・・・、インターネットはニッキュッパー・・・、ただ今、マイクのテスト中、テスト、テスト、テスト・・・。さまざまな言葉が、雨あられと降ってくるのです。
王子さまはそんな言葉の洪水を思い出し、ウンザリしながらもじっと流れ星を見ていると、流れ星はまた何か独り言を言っているみたいでした。
「う~ん、痛い。本当に、痛い!」
近づくに従って、いっそうハッキリと聞こえてきました。「何が痛いのかな?」、聞きながら王子さまは首をかしげます。
「こりゃ、たまらんぞ。痛い、痛い!」
小さくて長い右の手で反対の手や足をさすると、今度はやはり小さくて長い左の手で同じ事をしていました。口もとをぎゅっと結んで大きな目をパチクリさせているのは、本当に痛いからでしょう。
流れ星は恒星の光によっては顔を白くしたり黒くしたりして、猛烈な勢いで王子さまのいる所にやって来ます。後ろになびいていた長い尾っぽが次第に短くなると、最後は王子さまの星の大気に触れてビシッバシッと激しい音を立てていました。
「アッ?!」
王子さまは声にならない声を上げると、「気むずかし屋のギャラクシーだ・・・、もう三年?」と心の中でつぶやきます。それから首に巻いていたマフラーで、思わず顔を隠していました。
そうです、ギャラクシーは三年に一度、王子さまの星に立ち寄るか側を通って長い旅に出ていました。ギャラクシーも若く王子さまも幼かった頃はギャラクシーは立ち寄ると、ここぞとばかりに冗談を言って王子さまを喜ばせていました。そして王子さまが少し大きくなるとジャンケンもしましたし、もっと大きくなると相撲を取ったこともありました。
でも
しかし、王子さまにとってギャラクシーは大切な友でした。嫌いになる理由はなかったのです。
「こんにちは!」
王子さまは、無理をしてでも元気よく叫んでいました。ギャラクシーは、もう目の前まで来ています。
「誰かね?!」
細い手足とは裏腹に、われるような大きな声が返ってきました。それから、もう一度、
「誰かね! 急ぎ旅のわしを呼び止めるのは?」
大きな目をさらに大きくして・・・、手足に比べて目は極端に大きかったのですが、さも不機嫌そうに言っていました。
「ねえ、痛いって・・・。ギャラクシー、どうして痛いの?」
王子さまはギャラクシーの機嫌の悪さに後ずさりしながら尋ねた途端、小さな星はバランスを崩してグラグラ、グラッと揺れていました。
視力と記憶力がかなり衰えたのか、小さな星に立っている王子さまがギャラクシーには分かりません。ただし、それはギャラクシーの視力と記憶力だけの問題ではなく、枝を握っている王子さまと桜の木が背の高さといい細さといい驚くほどそっくりで、視力がそれなりによくないとわからなかったのです。
そのためにギャラクシーは声の主を確認することができず、大きな目であっちを見たりこっちを見たりとしていましたが、
「オヤッ、なんと王子さまじゃないか?! いつから、木に化ける練習をしているのかね・・・?」
と、やっと気がついたようです。そして、自分で言った「木に化ける練習」という言葉が気に入ったのか、一人でニヤニヤしながら含み笑いをすると機嫌を直していました。
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