ゴールデンベリーの独白(Goldenberry's Monologue)

 私は使命を感じていた。何としてもあの子を守り抜くことに。

 そしてそのためなら、誰かをあやめることだっていとわないのだ。

 あの子と同じく、偶然にも『ミックスベリー』の参加資格に合致する本名を有していた私は、意を決してその門を叩いたのだ。顔の見えない若者が渦巻くその世界に私は、はじめはただただたじろいだ。

 半信半疑ながらも、交流を深めるうちに、あの子がやはりこのグループチャットに紛れているということの確かな信憑性を感じ始めていた。


 あの子は声を失っている。

 しかしたまに発せられる、えつにも似た小さく短い声。その儚さに私はひどく胸を痛めたが、声色それ自体は私の聴覚野に潜む記憶を刺激した。

 成長したその顔だって、面影を残している。

 ハンドルネームを封じられていたって構わない。私はあの子の本名だって知っているのだから。

 私はいつだってあの子を応援し続けている。その理由など語るまでもない当たり前のものだ。


 再度お近付きになろうなんて烏滸おこがましいことなどはまったく考えていない。あの子はあの子のひのき舞台で生きている。ただ、一目会って一言だけでも話せれば良かったのだ。成長した姿をこの目と耳で確認したかっただけなのだ。


 しかし、当初の予定を大幅に変えられ、愉しいはずのオフ会は、隔離されたおぞましい連続殺人事件のステージに成り代わってしまっている。

 そしてあの子はあまりに怯えていた。その理由も推し量ることができた。本意ではなかったが早急に私は事実確認をせざるを得なくなった。

 私には使命ができたのだ。彼女の代名詞とも言っても過言ではない天使の声を永遠に失わせないように。それを奪う輩は、一切の事情を忖度そんたくすることなく、排除することを約束した。

 あの子の悲しむ顔はもうこれ以上見たくはなかった。そしてそれ以上に、むせび泣くようにしか発せられない声は聞くに堪えなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


ゴールデンベリー(Goldenberry)


 ゴールデンベリーとは、食用ほおずきの実の部分のこと。別名インカベリーとも呼ばれるように原産地はペルー。日本では馴染みが薄いが、欧米ではドライフルーツの定番の一つであり好評を博している。程よく爽やかな酸味が特徴であるが甘みもある。豊富なミネラル、タンパク質、ビタミンA、B、C、E、Pなどを含み、美容やアンチエイジングにも効果があるとして注目を集めている。

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