ストロベリーの独白(Strawberry's Monologue)
正直、こんなに大勢集まるとは思っていなかった。
ハンドルネーム『ストロベリー』こと、俺は無類のイチゴ好きである。言うまでもなくイチゴは最もポピュラーな果物の一つなので、好きな人も多いだろう。しかし、名は体を表すとはよく言ったものの、まさか名前までそのまんまである者は多くないと思われる。しかも俺は男だ。
そんな奇妙なる一致を果たした者が、偶然にも俺以外に存在した。ベリー類好き、かつ名前にそれに由来するキーワードを含んでいる者。類は友を呼ぶのだろうか。なんと俺以外に二人もいたのだ。
そのような偶然を俺は大切にしたいと思っている。
幼馴染みや高校時代のクラスメイトも大切だが、仕事も年齢も性別も出身地もバラバラの偶然の重なりによって生じた運命的な出逢いはもっと大事にしていきたいと思っていた。その方が、自らの見識を広めるには有効な手段だ。自分の知らない世界の知識を持つ人や、
とは言いながらも、俺以外の二人は、恋人探しに運命的な出逢いを夢見ている。男だというのにロマンチストだ。生まれや育ちの違う異性に憧れるのは、
話は逸れてしまったが、とにもかくにも、偶然の出逢いを大切にする奇妙な共通点を持った三人が集合した。既存のSNSに新たなるコミュニティーとして『ミックスベリー』を作成し、半ば冗談半分で、『ベリー類が好き』、『ベリーの名前の一部やそれに関係するキーワードを本名に有していて、その果実名をハンドルネームにする』という参加条件を設けて、グループチャットの参加者を募ってみた。『二十〜三十歳代の独身』という条件は、正直入れたくなかったが、他の二人にせがまれて『できれば』という文言を入れるという条件付きで、仕方なく付記した。入会希望の人が現れると、コミュニティー管理人である俺が承認するかどうかを決定する。承認すれば晴れてグループの仲間入りになる仕組みだ。
意外にも、スムーズに参加者は現れた。
参加条件を規定せず、来る者拒まずというグループよりも、参加条件は多少絞られているものの、自分がその中に当てはまっているとき、それを運命だと感じて、門を叩いてくれる確率が増すのかもしれない。しかも、些細な共通点とはいえどもそういった共通事項を持っていると、不思議な親近感が湧き、ひいては垣根を取り除き、自然と仲良くなる。人間の心理とは実に奇妙なものである。
いつの間にか、ハンドルネームはそのままベリー類の果実の名前を使用するという暗黙のルールが成立して、『ストロベリー』、『マルベリー』、『ラズベリー』、『シルバーベリー』、『ブラックベリー』、『タイベリー』、『ブルーベリー』、『ジューンベリー』、『グーズベリー』、『クランベリー』、『ハックルベリー』、『カウベリー』、『ゴールデンベリー』、『ヒマラヤンブラックベリー』という総勢十四名ものチャットグループ、その名も『ミックスベリー』が出来上がった。
しかも、その意気投合っぷりは『ストロベリー』の予想を大きく上回り、チャットが深夜まで過熱することも珍しいことではなかった。『ベリー類』が共通事項とは言え、その話題は決してそれに留まらず、趣味の話や、自分の出身地の話題、好きな本の話や、ご
彼らの出身地は東北地方、関東地方、中部地方、近畿地方、九州地方と、これまた全国津々浦々だ。話題に事欠くことは基本的になかったと言えよう。
そうやって、十四名の中で交流が深まるうちに、実際に会って話したいという風潮が漂い始めた。これぞ、SNSの醍醐味とも言えるが、最初俺も目を疑った。九州のメンバーも、集う機会があれば是非参加したいなどと、参加者全員の強い意気込みが見られたのだ。
俺は一段と気合いが入ってくる。『ミックスベリー』の発足者でもある俺は、第一回オフ会の企画を担当することとなった。当然の成り行きだが、俺は別に苦にはならなかった。もともとイベントやお祭り事には積極的な性分で、それを企画するのもまた好きであった。俺は、『ミックスベリー』第一回オフ会の場所を探した。遠方からの参加者のためにも、必然的に泊まりがけのツアーのような企画が組まれた。それにもってこいの開催場所として、ベリー農園とペンションが一体化した『ベリーズファーム&ペンション・カシス』が選定された。ありがたいことに、アイディアを出してくれる者がいたのだ。
こうして、まるで何かに押されるかのごとく、トントン拍子でオフ会イベントが予定され、ついに開催されることとなった。残念ながら『タイベリー』と『ヒマラヤンブラックベリー』だけは日程が合わず、今回のオフ会は見送ったが、全国各地から十四名中十二名が参加とは我ながら大したものだと思う。そして『ミックスベリー』の参加者十二名が、ついに今日この日、
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ストロベリー(Strawberry)
別名イチゴ。バラ科の多年草。食用として供されている部分は
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