タクシードライバーはTTライダー~マン島日記6月3日

 2006年5月25日木曜日、成田発ロンドンヒースロー直行ヴァージンアトランティックに乗り込む。去年初めて待望のヴァージンを選んで期待を裏切らない素晴らしいサービスだったので、今年も航空会社指名でチケットを取った。


 ボーディングのときに偶然前田淳選手と再会。昨年の筑波のモトルネ走行会以来だったか。去年も同じルート、同じ便だったので、二度目の偶然に二人ともびっくりする。

 前田選手は自分でカウルを運んでいたりして、やはり自分でチームをマネージメントしていくのはたいへんだなあ、とつくづく思った。2000年から4年間鈴鹿8耐にチームを率いて参戦した経験を思い出す。

 今年もヒースローからガトウィックのバスや、ガトウィックからマン島への飛行機で、彼の荷物を分散して重量オーバーしないように搭乗できるようささやかだがお手伝いする。


 マン島に着いたのは夜の9時半。飛行機はやや遅れたのだが、その分、何かと話をすることができた。

 マン島では前田選手のマネージャーさんがクルマで待っていて、前田選手は乗っていくようすすめてくれたが、電話をかけたかったのと(私はマン島で通じる携帯電話をもっていないのと、ここマン島でも公衆電話を探すのは至難の技だ)1時間に一本あるバスなら1ポンド50くらいで乗れるので、丁重にお断りしてバスを待つことにする。

 電話を終え、外へ出ようとすると、警備員さんとタクシードライバーが何やら口論している。どうも、私がバスに乗るのかタクシーに乗るのか言い争っていたみたいだ。

 二人にどっちなの、と詰問(?)され、いやバスに乗りますよ、と言うと、タクシードライバーはとても残念そうな顔をしたが、背に腹はかえられない。

 荷物をずるずるとひきずりバス停へ。残念ながら1本前のバスは行ってしまって、次のバスまで50分は待つ事になる。すると、さっきのタクシーが私の前に来て、「どうせダグラスまで帰るから安くしとくよ」

と言って、指で金額を示した。

 あまりの安さに半信半疑だったが、ここマン島ではタクシー料金は主要な場所から主要な街まではメーターではなくあらかじめ料金が決まっているため、ぼったくりもないはず。決めかねているうちに、ドライバーさんはとっとと私の荷物をクルマに積み込む。

 なんだかなーと思いつつ、タクシーに乗り込む。こちらのタクシーは自動ドアなどないし、乗るのは助手席だ。


 たまたまクルマが私が乗っているクルマと同じワーゲンのバンだったので、それをマクラにおしゃべりが始まる。

「マン島は何回目?」「TTを観に来てるの?」などとお決まりの質問。

 私も同じく「マンクス(マン島人)ですか?」とたずねる。すると、オヤジもじーさんもひいじいさんもそのまたじーさんもマンクスさ、と返ってきた。

「じゃあ、足が三本あるんだね!」

とお決まりのジョークで大爆笑。(マン島のシンボルは三脚巴紋である)

 私が日本から来たバイクジャーナリストで、社会学の研究としてもマン島TTを調査していると話すと、たいそうびっくりしていた。

 マンクスなのだからきっとバイクに乗るだろうと思って、「バイクには乗りますか?何に乗ってるの?」と聞くと、

「05のR6と06のR6を持ってるよ、05で今度のTTを走るんだ」と返された。


 なんと! タクシードライバーさんは果たしてTTライダーさんであった。


 そんな風にして、今回のマン島TTが始まった。

 

 タクシードライバーさんの名前はフィル。ゼッケン66番。

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