第4話 師匠の扱いは酷い
「さて、ここが私たちの根城だ」
とゴブ美が連れてきたのは森の奥にある動物が住んでいそうな洞穴だった。
確かにモンスターが隠れていてもおかしくない場所であり、すねに傷を持ちまくっている人間が隠れ住んでいても問題はなさそうな場所だった。
実際のところ、その奥からは野太いヒャッハーという世紀末っぽい声が聞こえているのと「ゴブゴブゥ」という涙声が混じっていて、嫌な予感がしてたまらなかった。
というか、洞穴の影に人の影が見えているのがわかる。
「男の声が聞こえる。嫌な感じがするので帰ろう」
「まあ、待ってくれ。私の目標は確かに奥にいる盗賊を外道にボコることだ。しかし、師匠のような外道なチキンに手を出させるつもりはない」
「酷くね! 俺師匠なのにどうして、そんなに酷い事言われるの? 30文字くらいでまとめて下さいよ!」
「師匠は察しているようだが、ここは今盗賊の根城になっている。だが、私たちがモンスターの国の領域から外道レベルを上げる為にここを見つけたのは先だったのだだが、外道レベルが0でな。後で盗賊がやってきて、あとはこの有様だ。もちろん、抵抗はしたのだが如何せん私たちの力が及ばなくてな。一部の仲間が盗賊の小間使いとして使われるしまいだ」
完全にコタロウの言葉を無視しつつ、ゴブ美は拳を握りながら、勝手に自分語りを始める。
「もしもーしって、まあ、いいや。このまま、逃げれば」
「うむ。その外道でチキンな心意気、受け取ろう」
震え声とゴブ美の手がコタロウの首根っこをつかむ。
ついでにずるずると引きずられて、森の奥へと引き込まれる。
そこには先ほどコタロウにやられた筈のゴブリン達がそろっていた。
「どうして、俺が倒した筈なのに」
「簡単だ。レベル0は雑魚で経験値も入らない。半人前だからだ。しかし、その為か、人間にやられてしまうと近くのセーブポイントから生き返ることができる」
「それって、レベル0の方が得じゃね?」
「いやいやいや、それではモンスターとしての格が落ちてしまう。人間と戦って、華々しく散るか、屠られるか。名誉と金が違ってくる」
「なんつーか、人間と変わらないな。モンスターの社会も」
「うむ。汚いのは人間もモンスターも同じだ」
ナチュラルに言動のディスリ方は外道なのに、何故この子はレベル0なのでしょうか。
コタロウは疑問に思ったが、多分それを口にしたら師匠と呼ばれてしまうそうな気がするので口には出さないのだった。
「何か私に疑問でも」
「いやなんでもないです。毛ほどにもね」
あと、変に勘が鋭いのもやめてほしい。
「いやてっきり、私の言葉に感動されたのかと思って」
ついでにこのポシティブシンキングも困ったチャンだと思うのはコタロウだけだろうか。
不意に他のゴブリンたちを見るとげんなりしているのに気付いてしまった。
どうやら苦労をしているらしい。
「それで、です。あの盗賊たちを倒す為に師匠に私たちを鍛えてほしいのです」
「ま、そうなるよね。つーか、俺は勇者だからあいつらをやっつける為にギルドにわたりをつけるとかできそうなんだけどさ」
「いやそれでは私達がレベル1になれない」
「俺、曲がりなりにも勇者側だぞ。協力はできないわけが」
「では、ギルドの前で脱いで勇者、コタロウから命令されたと」
「ハイ、従います。土下座させても手伝わさせて頂きます」
多分社会的に外道にされたとき、コタロウは終わってしまうだろう。それだけは避けなくてはならないのだ。
「うむ。母の行ったとおり人間の男はこういう脅しには弱いと聞いた。これは安心するな」
「てめえの母親最低だな」
「まあ、最弱とはいえ、ゴブリンの女王になった女騎士だ。これくらい逞しくはないと」
全然通じていない。
「というか、女騎士って高潔な人間の筈だろ。それが汚いの代名詞というか、ゴブリンに真っ先に襲われそうな側の人間が女王になっているんだ」
「王様と不倫して王妃様に睨まれて逃げ出した。そして、ゴブリン数名生んでから私を生んだ。クッ、殺せとはよく言っていたらしいが、ドMだったらしく快感だったと聞く。だが、メスのゴブリンである私を生んでゴブリン達から驚かれて、ちやほやされているうちにドS属性が開花。ゴブリンキングを単独で倒してゴブリンの女王になった」
色々とツッコミがいのあるお話なのだが、正直どこから言えばいいのかわからない話である。
ゴブ美のドヤ顔と対照的にコタロウの目のハイライトが失われる。
「はあ、そうですか。わかりました。わかりましたよ! とっととお前らの外道レベルとやらを上げる何かを俺が思いついて、実行させればいいんだろ」
「やっとやる気になってくれた。私はうれしいぞ」
むしろ、色々とやる気がうせて、用事を終わらせて見て見ぬフリをしたほうが楽な気がしただけなのだが。
「で、だ。俺に外道レベルを上げる方法を教えろという事だが、沼地までついてきてくれれば何とかしてやろう」
「そうか! なら、私達はすぐについていこうと思う。お前ら、師匠に従ってついて来い!」
ゴブッとばかりに6匹のゴブリン達がゴブ美の言葉に答える。
コタロウはほくそ笑む。
その笑顔こそ、悪魔であり、外道な笑顔であることを本人はわかっていない。
そして、
「クッ、殺せ!」
ゴブ美の悲鳴が沼地でこだまする。
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