第3話 外道レベル
今なんと言ったのだろうか。
――ししゃもになってください。
「何だかよくわからないが、多分強引に別の方向に持っていこうとしているのはわかった気がする」
「ししゃもって俺は聞こえたよ。俺の耳はそのように処理をしているんだよ」
「いや、師匠って私は」
執拗な言葉にコタロウの何かが吹っ切れた。
「ししゃもって聞くことを強いられているんだ!」
集中線が出そうなほどの大声。血の涙を出さんとばかりの迫真の表情。
これでコタロウの主張は通るはず、
「いやいやいや、そんな事言おうとも師匠って私は言った」
というわけには行かなかった。
コタロウの主張はハーフゴブリンの少女には通らなかったらしい。
何故だろうか。きちんと自分には聞こえたのだ。
――ししゃもになってほしいと。
脈絡のない言葉だが、コタロウの中学の時の数少ない友人は言っていたのだ。
「考えるな。感じろ」
自分が見たままに聞いたままに感じる。それが正しい。考えるのは頭の固いのが原因だと。
だからこそ、コタロウの感じた言葉が正しいのだと。
「いやいやいや、それは間違いだと思うぞ」
「俺の心に入ってくるな!」
「ぶつぶつと呟いていたのだが」
「くっ、殺せ」
「それは私の言葉だ。くっ、殺せ」
色々とカオスな状況にコタロウは頭を抱えるが、どうにでもなれだ。
「ししゃ」
「それはもういい」
ハーフゴブリンの少女は心底嫌そうにコタロウの口を塞ごうとする。
何故だろうか。コタロウは真面目に答えている。
何が悪いのか30文字くらいでまとめてほしいくらいだ。
「で、俺に面倒事をおしつけにきたハーフゴブリンこと、めんどい、ゴブ美にしよう、俺は帰りたい。用事が終わったから」
「私にも名前が・・・・・・うん。この自分勝手なわがままっぷり。甘やかされて育てられたクソ坊主。世間の荒波を知らない外道っぷり。これこそ、私の求めていたものだ」
「色々と酷いことを言われているのがよくわかります。ハイ、俺泣いてもいいですか。うん、泣こう。今から泣こう」
さめざめとコタロウは泣こうとする。
「とりあえず、落ち着け。そして、嘘泣きは外道っぷりがさらに磨かれて尊敬したくなる」
チッ。何故それがわかる。
ばればれなわけがないだろう。中学の頃の師匠直伝の技の筈なのに。
どうして、このゴブ美はすべてをわかったような顔をして、関心をしているのか。
というかだ、
「俺の事を外道とか、面倒なんですけど。あと、失礼な!」
「いや、ほめているんだ。私の足りないところを体現してくれていてな。だからこそだ。私の外道レベルを上げる為に師匠になってくれ」
と言いながら、ゴブ美は行儀正しく頭を下げてくる。
流石にここまでされるとコタロウは後頭部をぽりぽりとかきながら、口をへの字にする。
「ところでその外道レベルってのは何だ」
「知らないのですか」
「まあ、俺自体異世界から呼ばれたし、冒険者1日目ってとこだしさ。わかんねえんだわ」
「ほう。異世界、勇者かっ! それで外道なんて外道な勇者! イイ響きだッ!」
目をきらきらさせるゴブ美。
というか、その綺麗な顔で外道外道というのは正直コタロウが本当の外道になっているようでかなりきついのだが。
思わず、コタロウは眉間にしわを寄せてしまう。
「すまない。我らモンスターは外道レベルというのがあってだな、それがないと半人前以下と呼ばれる。大抵はすぐに人から物を盗んだりしてヒャッハーして、すぐに上がるのだが、私たちは落ちこぼれで上がらなかった」
「で、俺の鑑定の力でレベル0とか見えたんだが、そういうことか」
何もしていないから、レベル1にもなっていない。モンスターの世界は世知辛いらしい。
「おおっ、人間はすぐにわかるのか。モンスターは魔王ギルドのギルド員に見てもらうのだが何とも便利だな」
「まあ、人間もギルド担当官に見てもらうんだがな。俺が特別なんだ」
それしか特別な能力はないが、と心の片隅でコタロウは呟いておく。
人間、特別な能力があれば誇りたくなるだろう。
「ほうほう。そうなのか。それは便利だな。だったら、余計に私の――いや、私たちの外道の師匠になって下さい」
「やだ。面倒」
「うむ。この一瞬で答えるところ。鬼畜である」
やだこの人、腕を組んで体をぶるぶる震わせて、恍惚の表情。ドMか。
コタロウはそんな趣味がないので逃げることにし、
「逃げるなら、人間のギルドの前で泣いて、コタロウという勇者が私を捨てたと騒いでやる。見てくれだけは何か良いらしいので、受けがよいのでな」
悪女の才能はある。
何故、ゴブ美の外道レベルは0なのだろうか。
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